プロローグ

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プロローグ

 「今どこにいますか――? 書き出しはいつも一緒だな」  宿屋の一室でセトは便箋に最初の一言を書いて小さく笑った。もう何度目の手紙になるだろう。書いている相手は婚約者の未来のレディ・クロノシス、年若いが領地を継ぐ予定の侯爵令嬢アミナ・クロノシス(25) すっかり旅にも慣れた青年は貴族の地位を剝奪される寸前の家の長男セト・ストラウス(27)  このセトはアミナに惚れていたのだが、家のために婚姻を結べという周囲と、アミナが後ろ指を指されることになるのではないかと悶々としていた。その内にアミナがメッセージカードに『旅に出ます』の一言を残し出奔したのだ。もちろん大いに慌て、落ち込んだ。振られたと同義だと地の底まで落ち込んで……アミナの友人、使用人から自分を卑下していて気付かなかった周囲からの評価とアミナの本当の気持ちを知ったのだった。  このまま彼女を失っていいのか? 否、そんなこと絶対に嫌だ。心を決めたセトは魔力を巡らせて笑みを浮かべる。  廃れていても貴族であれば必ずひとつ持ち合わせる固有魔法は問題なく使える。ストラウス家の固有魔法は『伝達』 戦時ならば重宝されるが平時の世では需要が少ない。これも廃れの一因だが要所要所にメッセージを送れる魔法はどこにいるかわからない相手へ届けるには最適だ。セトの魔力は強く、精密な扱いにたける。アミナだけに開封できる仕掛けをしてありとあらゆる場所にばらまく。アミナが触れればばらまかれたその他は自動消滅する。  手紙を書こう。君を探しに行くと伝えよう。じっと待っているなんてできない。旅をしながら手紙をしたためて、そうして今まで伝えていなかった気持ちを届けよう――。
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