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「リザエラ様、おはようございます」
部屋に入ってきたのは王妃側近のサムだ。赤茶色の髪の毛をきつく一つにまとめ、後れ毛一本見当たらない。ふくよかな体型に、その身にまとった骨組みのドレスが小柄な彼女をより(横に)大きく見せる。しかしドレスにはぴしっとアイロンがかけられ、ブーツはピカピカに磨かれている。その装いは彼女の性格をよく表していた。
「サム、おはよう」
リジーはにっこりと笑顔を向けたかと思うと、すぐに不満そうな顔をし、こう続けた。
「……城内ではそんなにかしこまらないでっていつも言っているでしょう?」
従者が主人に対してかしこまるのは普通のことであるが、リジーにとってサムだけは例外だった。側近であるだけでなく、昔からリジーの教育者でありよき理解者であり、姉や母のような存在でもあった。
リジーほどの地位にもなると、気兼ねなく話せる相手も少なくなってくる。だからサムには友人のように接してもらいたいといつも言っているのだ。
唇を尖らせ、ぷうと頬を膨らませるリジーの様子にくすっと笑うと、サムはお茶の蒸らし時間を確かめた。
「分かったわ。……今朝は一段と早いわね」
「久しぶりの静かな朝だもの。寝てたらもったいないわ」
サムは同意して頷いた。そして十日前のことを思い出して感慨深げに言った。
「トーランスが結婚してもう十日も経つのね……寂しい?」
「……全然? 今までと何も変わらないと思うんだけど」
娘のトアはこの国の後継者だ。結婚したからと言って、この国からいなくなるわけではない。
今、新婚の若い二人はハネムーンへ行っている。帰ってくるのは一か月後の予定だ。それに普段から任務等でいないことも多い娘だ。寂しさはない。
「そういう意味じゃなくて……娘が結婚したのよ? 親としての寂しさというか……」
「……ふふ、だからサムはあんなに泣いてたの? 手塩にかけて育てたものねぇ。……あら? でも、私の結婚の時は泣いてくれたかしら?」
リジーはいじわるそうな顔で結婚式でのサムの号泣っぷりを口にする。
「そ、それはもう言わないで……」
彼女は赤面しながらお茶を注いだ。
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