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しかしサムは初耳だった。長い時間彼女と一緒にいて、リジーの交友関係や好みなどはほぼ全て把握していると言ってもいいだろう。だが、ロックレイへの恋愛感情というのは聞いたことがなかった。
「……初めて聞くけど……今まで話してくれなかったの? 水くさいわね」
「……それは……そうねぇ、結構本気だったのよ。だからより言いにくかったってわけ」
視線を落としたリジーだったが、すぐに顔を上げてサムを見た。
「でも分かるでしょう? 私にはラレイルが、彼にもレイシアがいた」
「ラレイル様と別れていた時期もあったでしょう? その頃のリザエラなら軽い気持ちで告白くらいはしたんじゃなくって?」
「……友人なのよ。仲のいい関係を壊したくなかったの」
リジーは自嘲的に笑って肩をすくめた。
「……」
サムはそれ以上何も言わず、許可をもらってリジーの手元にある本を自分の方に向けた。掛けている眼鏡の位置を直し、本を見ると丁寧にページをめくった。
「この本は……ロックレイ様が?」
「意外?」
思わずサムは笑った。確かに意外だ。彼女が知るロックレイのイメージからは、とてもじゃないが愛の詩集を贈るところなど想像できない。
好きな相手から愛の詩集を贈られたら、そこにはそれなりの意味があるのかもしれないと思うのが普通だろう。リジーの恋は結局実らなかったのかもしれないが、何かしらの感情を求めて日頃この本を読んでいるのかもしれないとサムは思った。
「……昔の恋を思って、毎日のように読んでいるのね?」
「……別に、そういうわけじゃないわ……元々好きな作家の本だもの」
そう話すリジーの表情はかすかに憂いていた。
本は今にも破れそうなページも多い。何度も何度も、彼女がどういう気持ちで本を読んでいたのかが伝わってくるようだ。
「その……ラレイル様は知っているの?」
自分の妻が親友に恋していたなど、あまり歓迎できる話ではないだろう。余計なお世話だが、興味心から聞いてしまった。
「私がロックを好きだったことを? ……それは知ってるはずだけど……それがどこまで本気だったかなんて、分からないんじゃない?」
何も気にしていないかのような言い方だったが、リジーの寂しそうな声のトーンをサムは聞き逃さなかった。
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