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「…まただめだった…。」
妊娠検査薬の表示を見てぽつりと呟く。
そんなに人生甘くはない。
子供が欲しいと確認しあった日から既に10ヶ月は経っていた。
なんていったってαとβの男性同士の妊娠確率は2%なのだ。
そんなに簡単なわけない。
じわっと泣きそうになるのを我慢する。
いつも秋久さんに隠れてこっそり検査してはそれをゴミ袋の奥に隠すのが習慣化してしまっていた。
多分秋久さんは気づいてると思う。
それでも何も言ってこないし、もし出来なくても春乃が望むなら里親制度で引き取ることも考えてみようと言ってくれる。
まだ10ヶ月だ…されど10ヶ月。
もし僕がΩだったならきっともうこのお腹には赤ちゃんが居るんじゃないかって思わずにはいられない。
「春乃〜お腹痛いの〜。」
ずっとトイレに篭ってたせいで秋久さんが心配して声をかけに来てくれた。
「だ、大丈夫!」
「そう?なにかあったらすぐ言ってね〜。」
遠ざかっていく足音を聞きながらまた泣きそうになる。
焦ってるのはわかってる。
でも…僕はβだから怖い。
もし秋久さんが何かの事故とか弾みとかでΩと番ってしまったら?
その人の間に子供が出来たら?
そんなの馬鹿な妄想だって分かってるのに想像しては悲しくなる。
愛のカタチが欲しい…。
手を洗いながら鏡を見る。
平凡な顔の男が映っていて、その首には黒く変色した消えない噛み跡が付いている。
前はこれさえあれば僕は大丈夫だって思えたのに…。
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