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「ごめん春乃」
「なんで謝るの?」
顔色一つ変えない僕の返事に怪訝そうな顔をした彼はまた意味もなくごめんと呟いた。
とりあえずで謝られるくらいなら、そんな謝罪なんて聞かされない方がマシだと思う。
「……もういいよ。幸せになってね」
僕は投げやりに言って彼らに背を向けて歩き出した。後ろから洸希の声が聞こえてきたけれど全部聞こえないふりをしてただ前へと突き進む。
今日は付き合って2年目の記念日だった。
僕が19歳で彼が20の時に出会って、付き合ってから2年。長いようで短い期間。
僕がΩだったならこんなことにならなかったんだろうか……。
Ωは特殊な体質の所為でかなり昔は差別に苦しんでいたと聞くけれど今はΩを守ろうという運動が盛んに行われていて差別なんてしよう物ならその人物が白い目で見られるような時代だ。
その所為もあるのかカーストでいうとβが一番下というのが常識になりつつある。
何も持たない平凡なβ。
数の少ないαとΩに比べて沢山いるβ。
αとα、αとΩは良くてもαとβは上手くいかないことが多い。
はあ、はあ、と肩で息をしながらゆっくり後ろを振り向いた。随分遠くまで来ていたみたいで勿論彼らの姿は無い。
それが何故か無性に寂しく思える。
「損な役回りだよね。馬鹿らしいや。」
こんな気持ちになるならαなんかと関係を持たなければよかった。
一筋、頬を伝って涙が流れる。
もっと早く涙が流れていたなら、彼を引き止めることも出来たのだろうか…なんて思ってから運命の番に勝てるわけ無いって考え直す。
辺りを見渡せばもう日が沈み始めた所為かイルミネーションが輝いていた。
「帰ろ」
明日は大学を休もう。
部屋に籠っていたい気分だ。洸希とも顔を合わせづらいし。
初恋だったのになあ。
ふらふらとネオン街を歩く。
あんまり来たことの無いこの場所はインドアな自分には未知の世界に思える。
元来た道を戻ると彼らにまた合うかもしれないので少し遠回りして帰るしかない。
客引きの美人なお姉さんやお兄さんが通る人に声をかけているけれど僕は呼び止められることは無かった。
デートのために自分なりに精一杯お洒落をしてきたつもりだったけれど、いかにも金のない貧乏学生という風貌だし、顔も平凡でお世辞にも整っているとは言えないから声をかけられないのも当然のことだろうと思った。
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