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   人類の適応力は凄まじいもので、不安だったセラとの生活が始まって三か月が過ぎていた。  両親を早くに亡くし、兄のクラウドが出稼ぎに星を離れて以来一人暮らしがすっかり板についていたから、レニーは朝起きたらテーブルに朝ごはんが出来ているだけで幸福感に包まれていた。  学校が始まるまでの休暇中に収穫祭の準備のため猟銃会のメンバーと丸鹿狩りに出かけ、その日の稼ぎをもらうと市場に赴き生活用品と食料を買い込んだ。セラは初めてみる食材でもおいしく料理してくれるし、なによりレニーに優しかった。仲良くなればなるほどセラに興味が湧いていろいろ知りたくもなるがこの一か月で分かったことは、宇宙船の修理ができることと、花が好きということだけで他のことはなにも知らない。追い打ちをかけるように宇宙船の修理も八割ほど終了しセラがいつ自分の元を離れて宇宙に帰ってしまう日が近づいていた。  そんな毎日にやきもきしながら休暇は終わりを告げ新学期が始まった。このままずっと二人で暮らしていきたいと思い始めていた頃から幸せな日々の終わりは始まっていたのかもしれない。 「授業中に失礼する連合軍の者だ」  屈強な男がずかずかと予告もなしに教室に入ってきたのだ。レニーたちの授業を担当していたイスラム教官は事の重大さを十分に理解して静かに低い声で「何でしょうか」と一人の男に尋ねる。 「そう警戒するな。実は人を探しているんだ」 「人ですか?」  男は小さな機械をポケットから取り出しスイッチを押した。すると人のホログラムが再現される。その人物はレニーにとってとても見覚えがある人物だった。 「こいつは我々連合を脅かした反乱軍、レジスタンスのスポンサーであるシャイナリー家の残党で名をセラ・シャイナリーという。この女はシャイナリー星の第四公女で危険人物だ」  シャイナリーという名前にレニーを含めたクラスメイトはもちろん教官も驚きを隠せずにいた。 「シャイナリー家は一年前の銀河大戦で星ごと消滅させたのではないのですか? この星と何の関係があるのですか?」  教官が恐るおそる尋ねてみると男は意味深に笑みを浮かべる。 「連合軍にシャイナリー家のスパイが紛れ込んでいてな、そやつの手引きで彼女は宇宙空間に逃れたのだ。そしてある情報筋からこの星に身を隠している可能性が高いことが分かった」 「は、はぁ左様で」  ポカンとしていたイスラム教官を連合軍の兵士はなんの躊躇もなく殴り倒し、うずくまった教官に弾丸を打ち込んだ。黒板にまで飛び散った鮮血が日常の終わりを告げる。 「うわぁぁ!」「キャー!」 その光景にクラスメイトが悲鳴を上げるが間髪入れずに銃声が響く。 「黙れ、殺されたいのか!」  クラスメイトは一瞬にして黙りこくる。他のクラスでも銃声が聞こえ学校全体が静寂に包まれたようだった。 「今から我々がお前たちの居住区に向かい反逆者の確認と粛清を行う。今から一人ずつ帰宅の準備にかかれ」  おそらく最新鋭の武器である銃を携えて命令を下すように叫んだ。  クラスメイトは恐怖で顔をくしゃくしゃにしながら廊下に並び、点呼をとられる。 「おい、このクラスのリーダーはだれだ!」 「ぼ、自分であります!」  クラス委員長である男子が声を震わせながら手を挙げた。 「前へ出ろ!」  震える足を抑え涙と鼻水を垂らしながら列から抜ける。 「机の数と点呼の数が一人分足りない。どういうことだ!」  銃を眼前に向けられ完全に腰を抜かす。がくがくと身体を震わせ過呼吸になっても兵士はかまわず銃口を向ける。 「誰がいなくなった? 五秒以内に答えろ!」  兵士は数を数え始める。委員長はパニックになりながら列を振り返るが視界が揺れてクラスメイトの顔を認識できないでいた。 「三……二……一」「はぁはぁはぁはぁはぁ」  兵士が引き金に指をかけ、委員長の額に銃口を向けた。 「レニーです! レニー・エアロックがいません!」  勇気ある女子が過呼吸になって気絶した委員長に代わって答えた。
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