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 「そこまでだレニー・エアロック!」  兵士たちのリーダーである男が銃口をこちらに向ける。 「なんでできるだけ遠回りをしてきたのに」 その男はイスラム教官を殺したやつだった。 「貴様の友人が素直に教えてくれた、貴様の居住区から仕事先のことを」  脳内にクラスメイトの顔が思い浮かばれてレニーは苦虫をかみ潰したような表情になる。自分が逃げたことでみんなが危険な目にあったのだ。 「セラはお前らなんかに渡さない」  レニーは鷹の目を構えた。実際に実弾を詰めた銃を人に向けたことは初めてだったため小手先が震える。 「レニー……」 「大丈夫だよ、僕が守るから」  いくら虚勢を張っても怖いものは怖かった。しかし自分の後ろで身体を震わせているセラに余計な心配をかけたくはなかった。小声で何度も大丈夫だからと何の根拠もない気休めの言葉をかけレニーは深呼吸をして狙いを定める。 「レニー・エアロック。それをおろせ取引しよう」  兵士は他の兵士たちが構えた銃をおろさせる。 「要件だけ言う。セラ王女をおとなしくこちらに渡してくれないか? そうすればもう誰も犠牲にならなくてもすむ」  男が一歩詰め寄るとレニーは見当違いの方向に一発打ち込んだ。 「宇宙船の中へ走れ!」  男たちがひるんだスキを見てセラを宇宙船に走らせる。金属の壁が上にスライドして一目散に駆け込んだ。 「断る!」 「レニー・エアロック。もう一度チャンスをやろう。セラ王女をわたせ」 「いやだ!」 「わがままなガキは嫌いなんだよ……ヨッチ会長だっけ、生きてるといいな」 「この外道が!」  レニーは鷹の目の銃口を向けた。 「キャー!」  セラの悲鳴が宇宙船から聞こえてきて集中力が途切れた。その一秒にも満たない隙が兵士を自由にさせた。 「ご苦労さん」  レニーの額には固く冷たい感覚があった。しまったと心で叫んだ時には銃のグリップで思いっきり額を殴打されたあとだった。 「レニー!!」  宇宙船に潜伏していた兵士がセラを拘束し外へ出てきた。  額から流れる血が視界を奪いレニーは思わず地面にうずくまる。 「フレディーご苦労」 「はっ! 中隊長殿」 「よし、ギガンテスターに帰還す……」  レニーは兵士の足を両手で力いっぱい掴む。 「このクソガキ」  太い声が聞こえたがレニーには避ける気力が残っていなかった。そのままみぞおちに鋭い蹴りを喰らって一メートルほど転がり今度は仰向けになる。息が出来ない、まるで溺れているかのように苦しい。 「ごめんなさい。レニー。私のせいでごめんなさい」  薄れゆく視界の中でレニーの瞳が映したのは涙を流しながら駆け寄るセラの謝罪の言葉だった。 「連れてけ」 「えっ? 中隊長殿始末しなくてもいいのですか?」 「バカ者、感じないかやつが近くにいる。だがまだ戦う時じゃない。ミッションは王女の回収だ。余計なことはするな。連れていけ」 兵士の号令でセラは屈強な男達に囲まれてなすすべもなくどこかに連行されていく。レニーは一メートル先にころがる鷹の目に懸命に腕を伸ばすが力及ばずに重い瞼を閉じた。
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