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 丸鹿はとても大人しい動物だが繁殖期はとても獰猛になっていて森を飛び出し草原を転がりまわる。メスはより速く転がることができるオスとの遺伝子を残そうとする。そのためオスはより速く転がるために身を肥やし丸みをおびた体に成長するのだ。しかしそれが災いを生んだ。繁殖期のオスの肉は霜降りで質が高いことから人間に狩られる機会が増えていつの間にかこの星の産業にもなっていた。一次は乱獲もされ数が減少したが今は猟銃会が定めたルールにのっとり狩りを制限したのでだんだんと個体数が増加している。 「あまり奥に行き過ぎると野犬に襲われるから」  そんなレニーの忠告に聞く耳を持たないセラはどんどん森の中を進みレニーが目を離したうちに姿が見えなくなってしまう。 「こっちだよレニー」  セラの声を追い森の奥へ進むと木々の間に出来た小さな空間があった。セラはそこでしゃがんでいてレニーが不思議そうに見ていると立ち上がり振り返る。 「これが丸鹿?」  そう言って大事そうに両腕に抱えていたのはまだ幼い生まれたばかりの丸鹿でセラの腕に抱かれた丸鹿の赤ん坊は暴れることもなく気持ちがよさそうに欠伸をしている。 「驚いたな、子供の丸鹿は警戒心が強く人に抱かれて大人しいなんてことはないのに」 「こんなにかわいいのに」  指を近づけると匂いをしきりに嗅いだ後安心したようにレニーが体に触れるのを許してくれた。二人で数分間愛撫した後レニーは少し不安になる。 「親が近くにいるはずなのにおかしいな」  レニーはまだ朝とはいえやけに静かな森に違和感を感じていた。丸鹿の赤ん坊の足跡が僅かに残る道をたどると微かに鉄の臭いが鼻につく。臭いがする方向に近づけば近づくほど疑心は確信に変わり数メートル歩いた先に目を覆いたくなる現実が広がっていた。 「これはっ」  レニーの瞳に飛び込んできたのは二頭の丸鹿の死体だった。しかもその殺され方は惨くお腹の一部分だけがくり抜かれていて他は手つかずの状態で捨てられていた。くり抜かれた所は希少部位と言われる所で闇市場でかなりの高値で取引されている。 「レニーどうしたの……っ!」 「セラ申し訳ないけど先にその子を連れて家に戻ってくれないか、僕はやることが出来た」  
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