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初めてあなたを見たとき、あなたは陰気臭くてどこか不気味で、みんなの嫌われ者だった。痣まみれの手足のせいで、虐待されているなんて噂もあった。そのうちイジメも始まって、あなたはどんどん浮いていく。どこにも居場所がなくなったあなたはいつもひとりぼっち。その孤独な姿と、突然消えてなくなりそうな危うさに、私は魅了された。
そしてやっぱりあなたは、消えてしまった。
あなたはもう、どこにもいない。
脳内で再生される、思いを馳せた過去の映像。それは、不意に部屋に響いたノックの音によって遮断された。
「どうぞ」と声をかける。ドアが開かれると男が立っていて、私は彼の言葉を待つ。
「美也子様、お茶の時間です」
執事のアランだ。彼はお辞儀をすると、ドアの外に置いていたワゴンの上で、お茶の準備をする。
和室には不似合いな、ベルガモットの香りが立ち込める。そしてちゃぶ台に洋風のティーカップが置かれ、ちぐはぐな光景に思わずため息が漏れた。
「申し訳ございません、不要でしたか?」
私の顔を覗き込むアランは眉尻を下げ、不安そうな表情を浮かべている。
彼の顔が私は大好きだ。困ったような、焦ったような、居場所のない捨て犬が媚びへつらうかのような、そんな顔がたまらない。
「いいえ、いただくわ。もう下がって」
私が手を払うと、アランは部屋を出る。その背中には哀愁が漂っていて、私以外の人が見ればきっと多くの同情を誘うだろう。
でも残念だけれど、私はアールグレイの茶葉が嫌いだ。無視されて誰にも口をつけられないまま、紅茶は冷めた。
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