あなた

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 病院から自宅への帰り道。前は、あなたと手を繋いでいた。今は、相手をなくした手のひらは冷たい空気を切るだけだ。  あなたと出会った中学校の前を通る。あなたは二年生のとき、何組だったっけ。  あなたと行ったレストランの前を通る。あなたはあの夜、何を注文したっけ。  あなたがくれたネックレス。あなたはこれを渡すとき、なんて言ったっけ。  あなたの行動を、表情を、温もりを思い出せない。  どんなに大切にしていても、いつかは必ず消えてしまう。  家に帰る。  出迎えてくれたのは、知らない人だった。
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