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不思議だ。波三谷くんに手を引かれると本当にそう思う。ぜったいそうだって思う。
笑顔がまぶしい。
たのしい。
このままどこまでも走ってゆける気がする。
「わぁぉ人いっぱいだね」
体育館の裏口の扉を開けると、波三谷くんは立ち止まってのんびりとした声で言った。
「そうですね」
入れるのは入れるけど席も空いてないし、扉の前に列ができてるから遠くて少し見えずらい。
これじゃぁ……あ、そうだ!
「波三谷くん私の背中にのって!」
「翠恋ちゃん俺の背中にのって」
「え?」「ん?」
「波三谷くん今なんて……」
「俺の背中にのってって……翠恋ちゃんは?」
「……わたしも」
「「…………ふっ」」
私が笑うと波三谷くんもふわりと笑った。
その時ぱっと照明が落ち、降りた幕の前に人が現れた。
物語が始まるのかな、ドキドキと鼓動が高まっていく。
「……お集まりいただいた人間の皆さん、こんにちは。いきなりですが、あなたは命に替えても好きだと思う恋をしたことはありますか?」
幕の前に立つ黒いマントを身にまとった人が言う。
「……命に替えても好きだと思う恋」
その言葉がドクンと胸に響いた。
「この物語はある一人の人間が一人を愛し続けた物語……おっと失礼。人間だった彼、……ですね。」
「もうそろそろ始まるようです。では私はこれで――。」
黒いマントの人は帽子を深くかぶり消えてしまった。
ゆらゆらと幕が上がり人影が一つ現れる。
その姿かたちで心臓がドクンと跳ねた。
見間違えるはずがない。
「一真くん……?」
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