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遠くからでも分かるサラサラの銀髪。角度によって光るリングピアス。
手、足、歩き方。ぜんぶ一真くんだ。
どうして一真くんが……?
「会いたい。あの人に会いたい」
手紙を書きながら大人しそうな青年が悲しそうに、喜びを噛みしめるように言う。
その感情表現に身体が震えた。
頭に恋しいあの人を思い浮かべているようだった。
一真くんなのに一真くんじゃない。ちゃんと役の人だ。
こんなに遠いのに目が釘付けになる。
その青年は記憶喪失らしく、その上体が弱いことから両親に屋敷から出ることを禁じられている。
それでも時々会いに来てくれる、透明の窓越しで文通をする彼女にとてつもなく惹かれていった。
ある日パリンッと激しく何かが割れたような音で青年は目を覚まし、見ると彼女が決心したようにこちらに手を差し伸べている。
その青年は迷った。両親の優しさを踏みにじることになるのではと。
それでも真っ直ぐな彼女の目を見れば、青年は彼女の手を取る他なかった。
青年も心は同じ気持ちだったから。
音を聞いて駆けつけた両親の手を涙ぐみながら振り払い、青年は窓から飛び出し彼女と森の中を駆けてゆく。
誰にも遮ることはできない恋の物語。
でも真実は青年は人間ではなくヴァンパイアで、両親はそれを周りに隠すために森に住み、嘘をついてひっそり暮らしてきた。
彼女は青年の秘密を知っていたのか、驚きもせずそれを受け止めた。
私は彼女がそれを知らなくてもきっとどっちでも良かったんじゃないかと思う。
照明が落ちる前、青年と彼女はハグをした。
強く。離れないように。
「やっと会えた」
最後に青年がポツリと言ったその言葉が脳裏に離れない。すごく感動した。ふたりの恋に。
青年に、一真くんに。
一真くんが綺麗なお姫様みたいな女の子とハグをして、
愛しさを幸せを噛みしめるみたいに微笑んで、見つめ合って、
――胸が痛い
初めて知る、この胸の痛みは、苦しさは
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