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僕がパセリについて知っていることと言えば、美術大学の版画科の二年生だということと、にこにこしているけど比較的無口なことと、左手の薬指が異様に短いということと、「短くてしょっぱい恋愛」を繰り返しているということくらいだ。
彼女の版画は見たことがないし、左手の薬指が小指よりも短いとどのくらい生活に不便なのかもわからない。「短くてしょっぱい恋愛」についても、彼女を紹介してくれた友人がそう言っただけで、実際に知っているわけではない。
「パセリは、もう食べたいもの決めたの? なんにした?」
パセリは僕のメニュー表のなかを指さして
「オムライス、ポルチーニきのこのクリームソース」
と言った。そんなメニュー、目に入っていなかった。途端においしそうに見えてくる。
「俺もそれにしてもいい? やだったらほかのにするけど」
恐る恐る尋ねる。
「もちろんいいよ」
パセリは笑った。店員を呼んで、オムライス、ポルチーニきのこのクリームソースを二つとセットのサラダ、ドリンクバーを頼む。
「純くんも、光ってるメニュー頼めばいいんだよ」
パセリは言った。
「え? ひ、光ってるメニューって?」
パセリのいうことは意味がまったくわからない。
「『私を食べて』って、光ってるメニューあるでしょ」
「う、うん……」
残念ながら、僕にはどのメニューも同じに見える。光ってるメニューなんてない。
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