ノスタルジック イン ザ パーク

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『もずみそさん』は、華ちゃんと話していると時々登場する名前の人なので、覚えている。 面識はないが何となく人となりを知っている、『友達の友達』。 確か、『推しに対して相当イカれているオタクだが、容姿端麗で有名国立大学を出ている二十代のOL』だったはず。 「うん。――それでその、もずみそさんに愚痴聞いてもらった結果……わたしが悪かったというか、早とちりしたかもというか……。だからええと……ごめんなさい!」 華ちゃんが勢いよく、がばりと深く頭を下げる。 「ええっ?! 急にどうした?!」 「わたし……一昨日の放課後、田久保君に頼まれたの。『姫野ってば俺のこと好きっぽいから、あいつから俺に告白できるように、君島が上手く場を設けてくれないか?』って」 「は?!」 私が奴を好きだという誤解はともかく、私の方から告白させようだとか、華ちゃんを協力者にしようだとか――図々しいかつチキンさあふれる田久保の要請に、私の口から思わずガラの悪い声が飛び出した。 「『俺も姫野のこといいなって思ってるから、受け止める準備はもうできてるぜ! 待ってる! と伝えてくれ』って」 華ちゃんはゆっくりと頭を上げると、乱れたツヤのあるボブカットの黒髪をなでつけながら、悲しげに言葉を続ける。 「これを言われた時、ショックでわたしの頭ストップしちゃって、うながされるままに了解の返事をしてしまったんだけど、時間がたつにつれて腹が立ってきて……」 「あぁなるほど! そんな大事件があったから、私にあの電話をかけてきたってことか!」 謎は解けたがスカッとする間もなく、田久保への怒りが腹の底からわいてきて、たぶん今私の顔はムカつきで引きつっていると思う。 ――まぁ奴が誤解する原因を作ったのは私、なんだけど。 といっても、世間話に毛がはえた程度の会話で勘違いされてもな……。 「うん。それで話は最初に戻るんだけど、このことをもずみそさんに愚痴ったら、『白雪ちゃんと直接会って話して、本当に彼女が嘘つきのひどい奴なのか見極めなさい』って言われたの」 「うわ、もずみそさんてばありがとう!」 「もずみそさんには以前からオタク話以外にも、プライベートなこと――白雪ちゃんや田久保君のことも話しててね……」
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