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私はブランコをおりて華ちゃんの前へしゃがみ、ぽんぽんと両手で肩を軽く叩いて頭を上げさせる。
彼女は今にも泣きだしそうな顔をしていたが、唇の両端を上げて小さく「ありがとう」と言った。
あぁそっか。
華ちゃんはこの騒動で、誤解による友情崩壊の危機と、失恋の痛手を同時にくらったんだもん。そりゃこんな表情になるよ……。
私にも落ち度はあるのかもだけど、田久保ムカつく。許すまじ。
「ねぇ、華ちゃんのスマホ貸してくんない?」
「いいけど、何するの?」
ばしっと始末をつけてしまおう。
そう決めた私は、戸惑う華ちゃんから彼女のスマホを受け取り、電話帳アプリの中から目的の番号を選び、緑のボタンをタップ。
「もしもし、田久保? 姫野だけど。――うん、そう。急いで伝えたいことがあったから、華ちゃんのスマホ借りて電話してんの。
あのさ、私ね、田久保のこと全然少しも好きじゃないから。
何を誤解したかしらないけど、あんた勘違いしてるから」
「それじゃ」と、できるだけ素っ気なく言い捨てて電話を切れば、華ちゃんが驚いた顔でこちらを見ていたから、私はにこーっと全力で笑ってみせた。
「寒いし、帰ろっか!」
立ち上がって空を仰げば、夜の色になっていた。
華ちゃんが公園に来てからそう時間はたっていないはずなのだけど、今の時期は日毎に日没が早くなっているから、夕方から夜までの時間も日々前日よりも短くなる。
「そだね。今夜うちおでんなんだけど、夕飯食べに来ない?」
「えっ、いいの?」
「いいよ。うちのお母さん、大きなお鍋いっぱいにおでん仕込むの知ってるでしょ。それに今日お父さん帰ってくるの遅いみたいだし、久しぶりに白雪ちゃんがきてくれたら、お母さんも喜ぶと思う」
「そっか。なら私も久しぶりにおばさんが作ったおでん食べたいから、お邪魔しちゃおうかな?」
「じゃぁお母さんに、白雪ちゃんと一緒にこれから帰るって連絡するね」
華ちゃんがおばさんへ連絡DMを送った後、私たちは数年ぶりに、思い出のある公園を一緒に出た。
「コンビニの肉まんってどこのが一番美味しいと思う?」などと、他愛ない話をしながら肩を並べ、君島家へ向かう。
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