ノスタルジック イン ザ パーク

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その道中、脚の着け根の横で握られ、歩みにあわせて小さく揺れている彼女の白い左手が、何となく私の視界に入った。 そういえば華ちゃんって冷え性だったな……と思いだしながら、これまた何となくその手を握ると、彼女は私の顔を見てぱちぱちと数回、素早くまばたきをした。 「相変わらず手、冷たいね。あっためてあげる」 「今日手袋忘れちゃって。ありがと」 人通りの多い道へ出たが、私たちは手をつないだまま歩き続ける。 女子同士だと大きくなった後も手をつないでいても、周りが変な顔をしたりとやかく言わないから、華ちゃんと女子同士でよかったなーと思う。 「ねぇ白雪ちゃん、明日アップルパイ作ろうと思うんだけど……作ったらもらってくれる?」 「え?」 「う、うちにね、今もらい物のりんごがたくさんあるから、痛まないうちに消費したくて。どうかな?」 長いつきあいな華ちゃんは、アップルパイが私の好物だと知っている。 なのにこの言い回しって……たぶん、誤解してしまったお詫びにってことだ。 さっき、「誤解とけたのが一番嬉しいし、謝ってくれたからもういいし! 気にしないで!」と言ったのに。 この言葉は百パーセント本心で、マジでもう気にしなくていい。 でもこうやって引きずっちゃうところ……いかにも彼女らしいし、いじらしいしで、思い切り彼女をハグしたくなった。だけど我慢! だって現在往来のど真ん中で、私はもう高校二年生なので。 「それ作るの、私も手伝っていい? 完成したら焼き立てのを一緒に食べようよ?」 花がほころぶような、という表現がぴったりな笑顔で、華ちゃんはうなずきと共に「うんっ!」とこたえた。 「華ちゃんが作るお菓子は絶品だから、今から明日が楽しみ〜!」 料理上手で、いわゆる大和撫子な彼女の良さに気づかず、他の女に勘違い発動させるなんて、田久保の恋愛センサーはたぶん壊れているんだろうな。 「絶品かどうかは保証できないけど、頑張って作るね」 「私も手伝い頑張るし、絶対美味しいのできるから大丈夫だって!」 つないだ手を大きくスイングさせながら、私たちは笑いあう。 漫画とかゲームとか普通に好きだし、趣味をひとつ増やしてみようかな……と、他の話をきゃいきゃいしながら頭のすみで考える。 趣味嗜好で距離ができちゃってたけど、華ちゃんとまた、お互い親友と呼びあえる仲になりたい。 だからまずは一歩、私の方から今の華ちゃんへ近づいてみようかなぁ、なんて。 * 終 *
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