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 一太が住んでいるのは荻窪の四階建てのマンションだ。高校を卒業してそれまでアルバイトやお小遣いを貯めていたお金で借りた。家具や家電はすべて中古を買った。それで貯金は尽きた。すぐにコンビニのバイトをしながら教習所に通った。そこで新藤真帆(しんどうまほ)という女の子に会った。顔が小さく透明感のある肌で、大きな目が理知的だった。一太は会うたびに恋に落ちた。  真帆は通信の大学で勉強しながら教習所に通っていると教習所の友達が言った。一太は仮免許が取れた日に勇気を出して真帆を夕飯に誘った。真帆とデートしたのはその日が最初で最後だった。連絡先を聞いて別れたのだが、次の日にラインをしてみると既読もつかなかったし教習所にも来なくなった。真帆と仲のよかった女の子に訊いたら神隠しにあったのだと言った。  今日、お客さんと話をして一太は真帆が頭に浮かんだ。そんなに親しくなかっただけに動向を知らない。教習所で親しくなった友達も連絡を取り合っていない。  ワンルームのマンションに入って冷蔵庫から炭酸水を出すと喉を潤した。ベッドを背もたれにして床に腰掛けテレビを点ける。ニュースで火星に関することをやっていた。一太は本棚にある宇宙に関する本に目を移す。夕飯を食べおえたら読書をするつもりだ。
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