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「閉じ込められてて。どうしても、助けて欲しくて、電話を。来てくれて、ありがとう……」
「仕事ですから。とにかく外へ」
と、そこまで言いかけた時、あれ、と春日は違和感を覚えた。
――電話したって言ったよな?……でも、この部屋圏外だし、固定電話らしきものなんてどこにもないぞ……?
真四角のコンクリートの部屋には、本当に彼の存在以外が何もない。外にあれだけ溢れていたゴミさえも。それでとうやって、電話をしたというのだろう。
いや、おかしいのはそれだけではない。
この部屋には、水も食糧も何もないのだ。電話があったのは一週間前。仮に一週間この部屋に閉じ込められていたのだとして、一週間も水も飲まずに人間は生き延びることができるのものだっただろうか。
――というか。この家にいるのは畑さんだけだと思って声、かけたけど。……この家に住んでた畑さんって……八十歳くらいの、おじいさんだったんじゃ。
今見つけた人は、どう見積もっても五十代くらい。
そう、言うなれば。
「あ、あの、畑さん?……下の名前を、伺っても?」
彼本人というよりは、その子供くらいの年のような。
「俺は、畑宗吾」
男はゆっくりと立ち上がりながら言った。
「畑正勝の、甥だ」
彼がそう言った途端、春日が入ってきた鉄製のドアが勢いよく閉まった。さらには天井から、何かがガラガラと振ってくる。悲鳴が喉に貼りついた。降ってきたそれらは、何人か、誰か、性別も年齢も分からない有様となった――白骨死体であったのだから。
「ああ、あんたが来てくれてよかった、これでやっと代わって貰える。ジイさんの様子を見に来て、次々引っ張りこまれて、この場所に閉じ込められて、俺達の家族が次々、次々、次々と“埋まる”のはもう嫌だったんだ。これで終わる、終わる、ありがとう」
どろり、と。さっきまで生きた人間に見えていた、畑宗吾と名乗る男の姿が溶けた。腐り果て、泥人形のようになった有様でこちらに手を伸ばしてきて、そして。
「これからはお前が埋まってくれ。お前の家族か誰かが、気づいて助けに来て、“代わって”くれるといいな」
「ひっ」
春日の断末魔は。
喉を潰されて、まともな声になることさえなかった。
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