うまる、うまる。

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 呼びかけても、ひらすらおーい、と言うばかり。ひょっとして、と春日は背中に冷たいものを感じた。もしや、畑は家の中のどこかで倒れていて、動けなくなってしまっているのではないか。だから、助けを求めているのではないかと。 ――た、助けないと……!  ゴミ屋敷に踏み込むのはまったく気が進まないが、人命がかかっているかもしれないなら放置はできない。摘み上がった新聞紙の山に体が触れないように気を付けながら、そして申し訳ないと思いつつも靴をはいたまま屋内に上がらせてもらうことにする。いかんせん、あっちこっちに皿やら硝子やらの破片も飛び散っているし、どこから虫も大量に湧いているので到底靴下で上り込めるような環境ではなかったためだ。  二階への階段は、どっしりとした布団が積み上がっていて完全に封鎖されていた。しかし、声が聞こえてくるのはそちらではないらしい。 「おーい……お―――い……」  悪臭に喘ぎながら、そろそろと歩を進める。聞こえてくるのは、キッチンの方だろうか。特に臭いが強い場所だ。思った通り覗きこめば、水場には汚れがこびりついたままの皿や、弁当箱の残骸、コップなどがうずたかく積み上げられたまま放置されている。隣のリビングのテーブルは食べかけの茶碗や汚れた箸、腐って黒ずんだ林檎や蜜柑だったらしきものまでが転がっている始末。こんな環境、数分でもいたら具合が悪くなりそうだというのに。  が、やはり人の姿は見当たらない。声はこのへんだと思ったのに、とリビングを観察していた春日は気づく。  ひっくり返って流れ出したコップの飲み物(コーヒーだったのだろうか?)のあとが、不自然に途切れている箇所がある。見れば、食器棚の真下に、妙な切れ込みらしきものがあるではないか。まさか、と思って春日は近くのゴミ袋をいくつか蹴飛ばすと、その食器棚の横を掴んでよいしょ、と持ち上げた。自分が老人や女性だったならこの作業は出来なかっただろう。重い食器棚をずるずると引きずるようにして動かすと、その真下から何やら地下室の入口のようなものが出現したではないか。 「おーい」 「うっそだろ」  声は、どう見てもこの真下から聞こえてくる。春日は重たい蓋を持ち上げた。現れたのは、地下室へ続くと思われるハシゴのようなものだ。この家、地下室なんてあったのか、と驚かざるをえない。 ――い、行きたくない……で、でも、人がいるなら、見に行かないわけには……。
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