うまる、うまる。

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『あの土地ってねえ、あんまりよくないって昔から言われてるのよね。あたしのジイさんなんか、忌み地だからあの場所だけはどんなに安くなっても買うなとか、口が酸っぱくなるほど言ってきたわけよ』  あのゴミ屋敷となんとかしてほしい、と言ってきた近所のお喋り好きのおばさんが、そんなことを話していたのを思い出す。 『だからまあ……畑さんがおかしくなったのは、あの土地に住んだからじゃないの?なんて話もあるわけで。ていうか、あんな風になっちゃう前に、ご家族でなんとかしてほしいものよね。弟さんに妹さん、それから息子さん娘さんお孫さん。遠くの場所とはいえ皆さんご存命だっていうし、親戚も多いみたいですから。みんな薄情だわ、様子も見に来ないなんて』  なんで忌み地である、なんて噂があるのかについては彼女も知らなかったらしい。勘弁してくれ、と春日はうんざりした。頭が変になってゴミ屋敷を作った人かもしれない、という場所にに行くだけで気が滅入るのに、ここまできてオカルトな要素まで加えられたらたまったものではない。  はしごを恐る恐る下れば、さほど時間もかからず底へとついた。目の前の鉄扉らしきものに触れると、それは重たいながらも鍵はかかっていなかったようであっさりと開いていく。現れたのは、八畳間くらいの真四角の部屋だった。コンクリートの打ちっぱなし、天井も壁も床も灰色の、まさに何もない部屋である。あるのはただ、天井から頼りなくぶら下がる、一個の裸電球のみ。  そんな薄暗くて寂しい部屋に、一人の男性が倒れていた。黒い髪が床に散らばり、痩せ細った手足を大の字に投げ出している。 「は、畑さん?大丈夫ですか!?」  慌てて彼の傍に駆け寄った。体を揺さぶると、うう、と呻き声を上げて瞼を持ち上げる男性。 「あ、あんたは、職員さんか?良かった、来てくれて……」 「畑さんですか?」 「そう、だ。俺が、畑だ……」 「よ、良かったです、無事で」  こもってきて聞き取りづらかったが、さっきまで自分を呼んでいた声の主と思って間違いないようだ。中年のその男は、首を振りながらもゆっくりと身を起こす。かなり痩せているが、どうにか自力で動くことはできるようだ。春日は心の底からほっとして息を漏らした。 「どうしてこんなところに?」  とにかく救急車を、と思って携帯を取り出すも、地下であるせいか圏外である。外に出てから呼ぶしかないらしい。 「助けてほしくて」  男性は、ふらふらと首を横に振りながら言った。意識が朦朧としているのかもしれない。
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