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うまる、うまる。
「すみませーん、畑さーん。今どこにいらっしゃいますか?N市役所の、春日ですがー」
ああ、何で自分はぼっちでこんなところにいるんだろう。二十四歳の市役所職員、春日純平は泣きたい気持ちいっぱいでその家を見上げた。閑静な住宅街――に似つかわしくない、ボロボロの木造平屋住宅。その敷地から、道路の半分に至るまで大きくはみ出している、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミの山。ゴミ袋に入っているものから、空き缶や皿、弁当の食べ残しまで。近づくだけで、目が痛くなりそうなほどの悪臭が漂っている状態だった。
ぶんぶんと飛び回る蠅の羽音が煩くてたまらない。本当なら、先輩職員と二人でこの場所に来るはずだったのに、よりにもよってその先輩が突然欠勤してしまったのである。最悪レベルのゴミ屋敷から逃げたくて仮病使ったんじゃなかろうな、と元よりその先輩にいいイメージのない春日としては思ってしまうところだ。行政代執行前の確認や説得も、自分達の仕事であるのはわかっている。それでも、誰だってやりたい仕事とやりたくない仕事はあるのだ。何で特殊清掃屋でもなく、専用装備もない自分がこんなところにぼっちで放り込まれなければならないのだろう。
新人とはいえ、先輩と一緒に何度かゴミ屋敷に足を運んだことはある。あるにはあるが、ここまで特大のものは初めて見る有様だった。
なんせ、二階建ての平屋の、一階部分がほとんどゴミに埋もれて見えないのである。事前情報のによれば、今自分が立っている門の前からは小さくとも立派な庭と縁側が見えているはずだった。庭には柿の木があって、昔は秋になると綺麗なオレンジの実をつけていたらしいという話も聴いている。
しかし、もはや今はどこが庭でどこか家だったのかさえわからない有様だ。ただ家からゴミが溢れただけではこうはならないだろう。まるで、庭先にまでゴミを運びだし、ぎっちりと敷き詰めたとしか思えない有様である。柿の木らしきものは辛うじて残っているが、夏場にも関わらずその葉や枝はかさかさにしおれており、見るも無残な有様と化していた。きちんと手入れを受けていないのは明白で、なんとも可哀想としか言いようがない。
「は、畑さーん?どこ、ですかー?」
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