人生一の幸せを

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必死に食らいついていた筈だった。頑張っていた。でも、心を塞いだ為にあまり反応をしなくなった僕を見て、つまらなくなってしまったのか。 僕に仕事を押し付けていた上司は、自分の重大なミスまでを僕に押し付けた。逆に今まで押し付けられてなかったことの方が凄いのかもしれない。 ともかく、その報告を見た会社の上層部から、クビを言い渡されてしまった。 ・ ・ ・ これが、1か月前までの僕の生活というか、人生だった。元々無駄遣いしなかったこともあって、無駄にあった貯金などを使って暮らしていた。 ほんと、なんで僕はこんな映画みたいな、漫画みたいな目に合ってるんだろうか。 それからと言うもの、頼れるのは自分だけといった状況だったため、必死になって再就職を試みた。 特段学歴が悪いわけでもなかったし、大学時代に頑張って取得した資格もあった。でも、前の会社をやめた理由が話せなかった。話そうとするとフラッシュバックしてしまって言葉が出てこなくなってしまった。 企業側としても、火種になるかもしれない人材を採用するはずもなく。再就職は叶わないまま1ヶ月が過ぎたのだった。 人目によって保たれている理性も虚しく。泣きそうになってしまう。 僕にできるのは、自問自答だけだった。 弱音を吐きたい。吐きたくない。 誰かを頼りたい。誰を? 誰かに存在を認められたい。そんな立派な人間じゃない。 1人は怖い。でも、誰もいない。 俺は存在意義がない。分かってる。 父さんと、母さんに会いたい。もう会えない。 死んでしまいたい。死ねないくせに。 それでも死にたい…。 じゃあ、勝手にー 「あれ?先輩?」 勝手にーー 「おーい、先輩…?あれ、人違いでした?」 段々と近づいてくる、何故か懐かしく感じる声に顔を上げる。でも直ぐに自分の濡れた頬が風に晒されるのを感じて俯いた。 「やっぱり水瀬先輩だ。めっちゃ久しぶりじゃないですか!」 天野(あまの)!久しぶりじゃん!だの、最近何してるの?だの。 言いたい言葉は沢山あるのに、喉から出るのは掠れた呼吸音だけだった。 早く返事しないと。天野が心配するかもしれないし。なにしろ、久しぶりに会えたのに。 「え…あ、ひさ……り…」 頑張って絞り出した声は、天野に届いたのかすらもわからない。 情けない自分に、本心とは裏腹に涙が出てくる。話さなきゃ。泣き止まなきゃ。そう考えれば考えるほど、自己嫌悪の波は押し寄せてきて、身体がカタカタと震える。 「先輩………?」 「っ失礼します!」 僕の雰囲気に流石に違和感を感じたのか。顔を覗き込むような動作をしていたから、泣いてたのがバレたのか。 身体が硬直する僕のことを横抱きにする天野。僕のことを心配してくれたのかな。 それにしても嫌なもん見せちゃった。嫌われたくない。嫌わないで。 自己中心的な考え方に自分でも辟易(へきえき)する。 「…ご、めん……。」 出てきた言葉は驚いてる声でも大丈夫だと断る言葉でもなく、謝罪の言葉だった。 謝る僕に対して不思議そうに首を傾げてから、微笑みかけてくれる。ああ、懐かしいな。僕はこの笑顔に……。 「隈。寝れてないんですか?」 ハッとする。 ダメだ。あれはもう忘れるって決めたんだ。僕は顔を隠すかの様に天野の肩に顔を埋める(うずめる)と、小さくこくりと頷いた。 寝る度に悪夢を見るものだから、寝るのが嫌になってしまっていた。不健康だからと早く寝ようとするのだが、早く寝ても1時間、2時間で起きてしまうのだ。 そんな不安を知ってか、知らずか。 「寝ててもいいですよ。……俺がいますから。」 と言ってくれた。 寝るのが怖い。寝て起きた時天野が居なくなってたら嫌だ。 とにかく睡眠を拒否する僕の本能とは裏腹に、久しぶりに感じた体温に僕の(まぶた)は閉じて行った。
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