19人が本棚に入れています
本棚に追加
「……先輩。…水瀬(ミナセ)先輩。」
何だか懐かしい声がする。
その匂いも声も体温も、何故か心地よく感じて、きっと夢なんだろうなとその人の腕に抱きついてからスリスリと擦り寄る。するとその腕はぴた、と固まって腕を抜こうとしてきた。
「やだ…いかないで…」
言うつもりは一切なかったけれど、弱音を吐いてしまう。でもそれでも、懐かしく感じた温もりを離さずには居られなかった。
「いきませんよ。傍、離れませんから…。」
…どうやら僕は寝ぼけていたらしい。夢だと思っていたのは現実で。必死に離すまいとしていたのは後輩の腕で。
恥ずかしさで爆発しそうだった。ごめん、と謝って急いで起き上がる。がそれは叶わなかった。体を起こしただけで強い目眩と頭痛に襲われ、僕は元いた場所に体を戻してしまった。
頭の中に?を浮かべていると、僕の額に手を当てながら「体調悪いんですから」と心配そうな顔をした天野が目に入った。
僕が家に押しかけたようになってしまったことも、ベッドを譲らせてしまったことも、看病させてしまったことも、仕事のために体を休ませてあげられないことも。何もかも申し訳なくて、目頭が熱くなるのを感じながらもう一度ごめん、と呟いた。
「明日は土曜日なので大丈夫です。それに、俺が無理矢理連れてきてしまったので…。そんな顔しないでください。」
……何故この男は欲する答えを教えてくれるのだろう。何故思ってることが分かるのだろう。
疑問は沢山あったが、確かに見苦しい謝罪よりも感謝を伝えた方がいいのかもしれない、そう思って、天野の顔を見てできる限りの笑顔でありがとうと声をかけた。
「大丈夫です。…大丈夫ですから、安心して寝てください。」
そんな天野の言葉を皮切りに、僕の意識は段々と夢の世界へ吸い込まれて言った。
「…………いじゃないですか。……かり……さいね。………。」
なにか言われたような気がしたが、僕の脳は睡眠欲には逆らえず、上手く聞き取ることが出来なかった。
ーーーーーーーーーーーー
2021.11.15
前後の辻褄合わせに文章変更しました。
最初のコメントを投稿しよう!