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天野にそんなつもりが無いのは分かっているのだが、どうしても数年間叱られ続けた記憶が蘇ってしまい、体が震える。
自分じゃどうしようもなくて、でも怖くて。近くにあった天野の右手をギュッと握った。
「…っすみません。怒ってないですから。」
天野はそっと腕を握っている僕の手を外した。嫌だったかな、と1人反省していると、失礼しますと言って抱き締めてくれる。不意に天野の首筋から爽やかな香りがして、体の力が抜けた。
「水瀬さんはもう気づいてるものかと思ってました。」
耳元で少しかすれた声がした。拗ねているような言い方だが、なぜだかその声は少し落ち込んでいるように感じて、僕は天野の背中に手を回してポンポンと軽く叩いた。
「なにを…?」
抱きしめられている体を離して、天野の顔を見る。
正直聞くべきではないような気がした。ここまで言い渋っている訳だし、僕には言いづらい話であることは予想がついていた。
これは僕のわがままだ。
「俺の気持ちを、です。」
天野は期待と不安と言う真逆の感情を目に写し、こちらを見つめてきた。
…ほんとに申し訳ないんだが、察し能力は高くないんだ。どういうことかさっぱり分からない。
黙り込んだ僕を見かねてか、天野は少し声を潜めてから
「こんな感じで言うつもり無かったんだけどな…。」
「俺、水瀬さんのこと好きでした。今も、ずっと好きです。」
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