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「ファラビア・テラの民との交配方法は、お前達地球人とほぼ同じなんだろうな。我々の出産方法もまた。……痛いなどと言う権利は我々にはない。子供を産めなくなったら我々は廃棄処分だ。こうして妊娠している間は、悪阻はあっても交配実験に使われなくて済むし、少しだけ休みと自由がもらえる。我々にそれ以外の存在価値はない」
思わず、鉄格子を握る手が震えた。ベティの姿が、なまじ地球人の少年によく似ているのがいけなかったのかもしれない。何故なら、カーティスにも外見年齢でいうならば彼と同じくらいの息子がいたからだ。今年で十三歳になる息子は、恐らく今日も地球で元気に友達とバスケットボールでもして運動場を駆けまわっている。それなのにこの子達は、産まれた時から檻の中で、好きでもなんでもない相手とのセックスと出産を強要させられているのだ。
こんな、惨たらしい話があるだろうか。
いくらなんでも、人権を無視しすぎている。ベティが淡々と、他人事のようにそれを語るのがあまりにも見ていて苦しかった。
「こんなこと、あっちゃいけない……!」
思わず、カーティスは叫んでいた。
「お前達、本当にこのままでいいのか?俺の……地球人の感覚なのはわかってる。でも、本当は子供を作るって、そんな不幸で無理やりするようなことなんかじゃないんだぞ!ていうか……本当は、苦しくて辛くてどうにかしてほしいから、俺のことを呼び寄せたんじゃないのか?助けて欲しかったんじゃないのか!?」
自分の理屈であるのはわかっていたが、どうしても許せなかった。元よりカーティスは、子供の頃から正義のヒーローに憧れていたようなクチである。いじめっ子は絶対に許せない正義漢。異星人とはいえ、このような恐ろしい行為がまかり通るなど断じて許せることではなかった。
「本当は子供を作るって、セックスって幸せなことじゃないといけないんだ。一番好きな人と、一番大切な家族を作るためにすることなんだ。暴力であっちゃいけないし、ましてや異星人の子を増やすための道具だなんて絶対に絶対におかしい!……お前達にだって幸せになる権利や、自由はあるはずなんだ!」
強く強く力説すると、ベティは目を丸くして――次に少しだけ笑って、言ったのだった。
「それが、お前達地球人の倫理観なのだな。……確かに、本来は愛し合う者同士で家族を作り、育てるのが当たり前だという。……私は、自分で産んだ子供を、この手で抱いたことすらない。きっと皆もそうだろう。……家族とは、愛とは、本当はどういうものなのだろうか」
この場所から簡単に出るわけにはいかない。出たところで行ける場所などどこにもないのだから、と。それでもせめて、地球の幸せな家族の話を知りたいと、ベティはそう告げてきた。
だから、カーティスは彼に頼まれるまま、テレパシーの回線を使って地球の書物のデータをベティに、それからベティの仲間達にも送ることにしたのである。それが、地獄の淵にいる彼等にとって、僅かばかりでも慰めになると信じて。
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