ベティは地獄の淵にいる。

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 ***  もし。  自分がもう少し聡明な人間だったなら、気づくことが出来ただろうか。己の浅はかで、あまりにも残酷な行為の意味に。 「あああ、ああ、うう……っ」 「カーティス、さん……」 「セオドア、俺は、俺はなんてことを……」  惑星RX-1853Kに三日滞在し、帰る宇宙船の中で。カーティスはひたすら、涙を流し続けるしかなかった。  自分は、なんて酷いことをしてしまったのだろう。  彼等は自分達が住んでいた惑星を滅ぼされてしまった。仮に地球に移住させようとしたところで、自分達の宇宙船に全員を乗せるなど不可能であり、もっと言うと全員分を移住させられる余裕があるような状況でもない。彼等はあそこで、生きていくしかない。本人もそう言っていたし、それがカーティスも分かっていた。分かっていたはずなのに、何故あんな惨いことをしてしまったのか。  地球の情報を、倫理を学んでしまったベティたちは知ってしまった。  自分達が地球で言うところの監禁、性的虐待、暴行を受け続けていたということを。それがどれほど恐ろしく、汚らわしく、醜い行為であるのかを。本来子供とは、愛する人と、愛するための行為によって生まれてくるべきであるということを。――それらの環境と自分達が、どれほどかけ離れており、手が届かないのかということを。  知ってしまった彼等は絶望し、自ら命を絶った。  最後に施設を訪れたカーティスが見たものは、檻の中で揃って首を吊り、あるいは首を掻き切り、舌を噛み切って死んでいる少年少女達の姿であったのである。誰も彼も、腹に子供を宿しているにも関わらず。否――望まぬ相手の子を、宿してしまっていたからこそ。 ――けして手が届かない希望など、教えてはいけなかった。何で、俺はそんな簡単なことにも気づかなかったんだ。  純真無垢な子供達を、地獄の淵から奈落の底へと突き落としてしまったのは自分だった。  残酷な正義の代償は、一人の子を持つ父にとって――あなりにも重たく、冷たい。
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