そしてだ~れもいなくなった

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「今どこで張り込んでる?」 「署長の言う星の家近くの物陰です」 「何、星の家?」 「あっ、今、星が出てきました」 「な、何、出て来た?」 「はい」成本桐夫は電話を切り、男に肉迫して行った。  3分後。 「署長、逮捕しました」と電話をし直す成本桐夫。 「ほんとか、信じられん。念の為、確認したいからビデオ通話に切り替えろ」 「はい」ビデオ通話に切り替わると、署長はスマホの画面を見ながら、あの馬鹿めと呻いた。 「おい!隣の男は誰なんだ!」 「はい、だから星であります」 「何?」 「だからですね、前に署長が飛んで火にいる夏の虫だ、今、我が所轄内に星がいると仰ったんで所轄内で星家を探してみた所ここしかありませんでしたのでここにいる奴に違いないと私は睨み、張り込んでいた次第でありまして、今、こ奴を捕らえた訳であります」 「アホ―!星とは苗字じゃなくて容疑者を指す隠語だ!そんなことも知らんのか!」 「あっ、そうでありましたか。ではこの人は?」 「関係ない人だ。直ちに手錠を外せ!」 「はい、分かりました」電話を切って人違いでした、すいませんでしたと謝りながら手錠を外す。 「お前、ほんとに警察官か?」と星新太郎。 「そうですが」 「警察手帳を見せろ」 「えっ、何で?」 「悪質な悪戯かどうか確かめるためだ」 「そうですか」警察手帳を見せる成本桐夫。 「お前、それ、本物なのか?」 「そうです」 「信じられん」 「本物ですよ」 「そっちじゃねえわ」 「えっ?」 「お前が警察官ってことがだ」と吐き捨て星新太郎は家の玄関に向かった。と呼び鈴が鳴ったので成本桐夫はスマホの受話器マークをスワイプして電話に出る。 「おい、星さんを解放したんだな」 「はい」 「その間に考えてたんだが、お前が我が署に居続ければ、今後も味噌をつけ泥を塗ることになるだろうと思ったんだよ」 「はあ」 「で、あんまりアホらしいから金輪際お前の相手をしたくないと思ってな」 「はあ」 「だからお前は今日限りで首だ!懲戒免職だ!」 「そ、そんな・・・」  前代未聞の超間抜け男、成本桐夫は警察官になったのだから非常に難易度が高い国家公務員試験をパスし、その上、厳しい面接や二次試験もパスしている訳であるから一般的な観点から見て馬鹿ではない筈なのだが、警察は消費税を社会保障費にほとんど当てていない政府のように交通安全協力金を交通安全啓発費にほとんど当てていない等、永田町的政治家の性癖を有していて汚職や不祥事が絶えないのであって人格的に欠陥があるのに対して成本桐夫の場合はガリ勉が祟って学校の糞の役にも立たない勉強は出来る代わりに常人には有り得ない欠陥がある。常識的に考えて思いもよらない所が抜け落ちている。だから話にすると、件のようにギャグみたいになってしまうのだが、本人は大真面目である。繰り返すようだが、本当に学校の糞の役にも立たない勉強を一生懸命やった所為でこんなバカが出来上がったのである。多かれ少なかれ日本の学校教育は人を駄目にするのは争われない事実である。  その最たる被害者の一人に数えられて然るべきであるのに成本桐夫は何故か女に持てる。ルックスがそこそこ好いし、何と言っても背が偉く伸びて女から見ると、カッコ良いし、序に言えば、少数の高尚な女にとってはへらへらしていると感じられる所が大半の下世話な女にとっては明るいと感じられ、また少数の高尚な女にとっては単なるお節介に感じられることが大半の下世話な女にとっては優しく感じられる上、嘘をつかないからだ。だから職にさえ就けば、女の一人や二人は直ぐに出来る。  で、スキルを活かして警備員に転職して新しい女が出来たのだが、馬鹿正直な所が仇となり、警察官時代に出来た女から電話がかかって来た時、とんでもないへまをやらかした。 「今どこにいるの?」 「安子のアパート」  はい、一人消えた。その後も同じへまを繰り返した成本桐夫は、出来た女がまた一人消え、また一人消え、そしてだ~れもいなくなった。
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