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青山、その路地裏にて
「あやめー、今どこにいるんだ? 待ち合わせ場所、B4出口だよね?」
「あっ、しまった! 間違えて、A3出口に来ちゃった!」
画面越しに聞こえてくるのは、優しい彼氏の柔らかな声。あやめは一人でぺこぺこと謝りながら、急いで駅の構内に戻り、そのままB4の出口へと向かった。黒いロングヘアを乱し、肩で息を上下させながら、一目散に彼の下へと駆けつける。
「はぁ……、はぁ……。ご、ごめん! お待たせ!」
「ふふふっ、大丈夫だよ。じゃあ、行こうか」
彼氏の温かい右手が、白いあやめの左手を包む。デートが始まる、いつもの合図。それはあやめにとって、かけがえのない宝物だった。
「それにしても……。あやめってさ、最近おっちょこちょいになった? なんか、ここ数日で変わったような気が……」
「えっ!? そ、そう!?」
あやめは彼の言葉を聞いて、焦ったように顔を伏せる。言われてみれば、つい先日、親しい友人にも指摘されたばかりだ。
「ああ、別に怒ってるわけじゃないよ。おっちょこちょいなあやめも、何だか可愛いなぁーって思って」
「……あ、あはははっ! もう、恥ずかしいってば!」
穏やかな光が青空を照らす、東京・青山。二人はぎゅっと手を繋いだまま、今日の目的地へと歩き始めた。
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