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じゃあね。
そう言って手を振り、夫とはそこで別れた。
夫が有給を取った今日は私のパートも休みで、二人してショッピングセンターまでやって来てぶらぶら歩き、ついさっき昼食を終えたばかり。
体を動かすのが好きな夫は、ここから走って家まで帰ると言う。
私はもちろん車。走るなんてとんでもない。
あとはスーパーで買い物をして、子供が帰ってくるまでに家に戻ればいいだけという、ありふれていながら幸せを感じられる平日。
穏やかだ。
けれど、立ち寄ったレストルームを出た壁際に見知った顔を見つけて、足が止まると同時に心臓が大きな音を立てた。
元彼——。
すぐにわかった。高慢そうな佇まいが全然変わっていなくて。
勝手な人で、振り回されて、傷つくことの方が多いのに耐えられなくなって別れた。
「よお、久しぶり。さっきのお前の旦那?」
そんな気軽に話しかけてこないで欲しい。
あれからもう何年経つと思うのか。
思わず立ち止まってしまったが、さっきのが旦那だとして、そんなことを確認して一体何になるというのだ。
いや、何にもならなくていいし、こんな男に知られたくもない。
だから何事もなかったかのように通り過ぎようとした。
私は、今を失いたくはない。
けれど、伸ばされた腕にまんまと捕まってあの頃のように肩を抱かれたら、とっくに消去したはずの感覚が一瞬で蘇る。
ちゃんと捨てたと思っていた、飴の味を。
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