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古いタイプの、エアロックと同じ仕様の扉だった。船外作業服を着たままの操作が前提となっており、生体認証のためのセンサーがない。緊急時には途中の通路をパージし、侵入者の接近を阻む意図があったのかもしれない。
私は、あらかじめ、従業員用のパスコードを抜き取っておいていた。正解にたどりつくまでには手数を要したが、結果的に、その扉は開いた。
ヘルメットのバイザーにつかのま霜が降り、船外作業服の電熱機能によって消えていった。
私の肉体は何も感じないが、冷蔵庫の中のような寒さだ。
無数のモニターと、古いタイプの大掛かりなワークステーション。からみあって床や壁を這うケーブル。無数のパーツからなる生命維持装置。熱帯の蛇めいた色とりどりのチューブがそこから伸び出し、床に横たえられたガラス張りの、棺めいたシリンダーにつながっている。
霜に覆われたその表面をぬぐった。
女の顔が現れた。
ファビオラだ。
頬に、若いころのそばかすの跡が残っていた。旧政府の端末で、顔を確認した時に見たものだった。
こういうものは、クローンには現れない。
遺伝子サンプルを抜き取ることができれば、クローンであることを示すタグの有無が確認できるはずだが、私はすでに確信を持っていた。
これは、オリジナルだ。
市民コードから得た情報のとおりならば、すでに四十歳を超えているはずだったが、そこに横たわって、眠っているように目を閉じている彼女の顔は、二十代半ばに見えた。
戦争で、彼女の身に何かが起こった。
そして、そのままずっと、彼女の時は止まっているのだ。
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