あなたのいる場所

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 棺めいたシリンダーは、コールドスリープ装置に似ていた。  彼女を捕らえた紅楼夢のスタッフは、若いままのファビオラの自我をクローンたちに移植し続けるために、保存していたのだろう。  コールドスリープのさなかにある者が、夢を見るものかどうか、私は知らない。  彼女の自我が吸い出され、繰り返し繰り返し、筆舌に尽くしがたい恐怖と苦痛の中で死んでいったことを、彼女が感じ取っていたかどうか、私は知らない。  ただ、終戦まもない十五年前、彼女がいかにしてかイーサンにメッセージを送ったとき、彼女には、自分の運命を予測できていたのだろう。    いずれにしても、それらはすべて失われた過去だ。  私はイスラーフに連絡をとった。  解放戦線の船は数時間後に訪れ、こみいった生命維持システムごと、ファビオラをピックアップしていった。  イーサン=シュライバーには、ファビオラはすでに死んでいたと伝えた。  そうして、私の仕事は終わった。  犯罪者たちの間ではよくあることだが、大きすぎる利益や秘密は仲間割れを 生む。  自動化が進み、組織を維持するのに必要な人数が少なくなれば、不要になった者を排除して、リスクとコストを削減しようとする動きも出てくるだろう。  紅楼夢の管理者の間で争いが生じ、それがクローンたちの管理に何らかのイレギュラーを生んだ。争いに勝ち残った管理者がクローンに殺され、クローンは、戦争からどれから時間がたったかも、イーサン=シュライバーがどれほど変わったかも気づかないまま、彼に助けを求めた。  きっと、そういうことなのだと思うが、真相は知らない。  数日後索道警察が、遺棄された娼館からコールドスリープ状態の複数の女たちを救出したというニュースが流れた。  当然のことだが、ファビオラ以外にもクローン娼婦のオリジナルがいたのだろう。  ファビオラとその他の女たちがどうなったのか、私は知らない。  解放されたところで、世界の残酷さは変わらない。  市民コードを持たず、法律的には死んだものとなっている女たちにとってはなおのこと、生きていくのは厳しいことだろう。  いずれにしても、私の仕事は終わった。  私は数週間ぶりに、事務所へと戻った。                    
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