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ビアトリスの姿がなかった。
私は床のハッチを開き、地下室へ降りた。
事務所と同じだけの床面積に、巨大な旧世代のワークステーションが隠されている。
再起動をかけ、事務所にもどった。
数分後、ビアトリスの姿がよみがえった。
彼女は、インタラクティブな立体映像なのだ。
昔、この街が戦場になったとき、私のせいでビアトリスが死んだ。
それはありふれた戦争の犠牲にすぎなかったが、若かった私は、そんなふうに割り切ることができなかった。
彼女を蘇らせるために、父から受け継いだ財産のほとんどを吐き出して、故人の自我を再現するシミュレーターを作らせた。
死は死だ。
それで、何が取り戻せたわけでもない。
私のくだらない自己満足にすぎない。
それでも私には、それは必要なことだった。
「チィーッス、社長」
何事もなかったかのようにビアトリスは言った。
「お土産、ないんすか?」
「ねえよ、そんなもん」
私はデスクに向かい、PCを立ち上げた。
了
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