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軌道上に上がったとたん、彼女は足止めを食った。
軌道エレベーターそのものが戦争の主戦場だったのだ。
法律的には、ファビオラはそこで死んだものとなっており、新政府の市民コードに彼女に紐づけられたものは存在しない。
そこから先の彼女の足取りは、「解放戦線」を名乗る組織のアラブ系の女と接触するまでつかめなかった。
イフラースというハンドル名。ネット上で見る彼女のアバターは、顔の左半分が赤い。
「リアルの私は、もっと醜いぞ」
それについて尋ねたわけでもないのに、彼女はそんなことを言った。まるで面白いジョークとでも思っているようだった。
「火傷か?」
「煮えた油を夫にかけられてな」
彼女が属する解放戦線が何を解放する組織なのかはわからなかったが、彼女の動機は想像がつく気がした。
「軌道上や月には、私のような者はいくらでもいる」
「ファビオラ=アンテローニと接触したことはあるか?」
「ない。だが、行きそうな場所の心当たりはある」
「クライアントから多少の金は預かっている。教えてくれ」
「500だ」
「それだけでいいのか?」
「もしファビオラがまだ生きていて、おまえに救い出すことができたなら、あと500もらおう」
イフラースはそう言った。
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