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男が死んでいた。
斬られた肋骨と肺の断面が目視できるほどの深い傷だった。
両手がなかった。
手首から先を切り落とされている。
武器は刀か、斧か。
死後、どれくらい経っているかわからない。軌道上の施設の空気は基本的に雑菌を含まないので、腐敗の進み方が予測しづらい。
空気中に血の痕跡はない。すでに浄化されている。
ただ、床や壁に飛び散った血が、そのまま残されている。
血のシミは、点々と左方に続いている。
その先に扉が開いている。
店のマップには存在しない扉だ。
警戒しながら踏み込む。
女が、死んでいた。
腕に携帯端末を抱えていた。そばに、斧と、男の手が落ちていた。
おそらく、男の携帯端末を奪い、斬り落とした手をつかって、指紋認証を行ったのだろう。
女は干からびていた。ミイラのような死体だった。
ファビオラに似ているようにも見える。
この女が、店の広告を自分のメッセージに書き換え、世に放った。
そういうことだろうと思った。
だが、確証はなにもない。
携帯端末はまだ生きているようだったが、男の干からびた手からはすでに指紋が失われていた。
私は斧を拾い上げ、振りかぶり、女の頭を割った。
女には脳がなかった。
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