あなたのいる場所

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 ヘルメットのバイザーにマップを投影する。  今いるのは店の事務所のようなスペースで、その奥に、いくつもの居住モジュールが続いている。そのはずだが、見えない。入り口がない。  店の端末の画面が明るかった。  客としての私がすでに退店したと思わせ、船外作業服の装備にかかったロックを解除させた。  解除された機能をつかって、店のシステムに侵入する。  厳重に守られている部分もあるが、セキュリティがゆるいところもある。  抜き取れる情報はごく限られていたが、各モジュール間の隔壁を操作するのは難しくなかった。  ため息のような排気音をたてて、見えていなかった扉が開く。  隠されている、というほどではなかった。それは、このモジュールの天井側にとりつけられていた。  ほんの少しスラスターを噴射し、上方の空間に飛び上がる。  途中で体をひねり、通路の続く方向まで慣性で飛ぶ。  通路出口の扉は開いている。    その向こうは、農場だった。  森のように林立する透明シリンダーの中で、何人ものファビオラが育てられている。シリンダーは、麻酔を促す薬液と酸素で満たされている。  五、六歳に見えるものから、三十歳をすぎて見えるものまで、成長段階はさまざまだ。いくつかの個体は頭骨を切り開かれ、ニューラルチップとそれにつながるケーブルが露出している。  シリンダーの森を通り抜けていくとき、不意にその中の一体が目を見開き、私を見た。  動かせるのは目だけのようだった。  何かを訴えたかったようだが、私にはわからない。意思疎通はできない。  私は何もせずに通り過ぎた。  次のモジュールの入り口が見えてくる。  マップ上では不自然な熱を放っていた、あの施設だ。          
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