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バース性、第二の性
男女の性とは別に存在する、α、β、Ωといったバース性──
昔は全ての人類がこの三つの性に分類されていたという。
あらゆる能力値の高い「α」、一般的な「β」、繁殖能力に長ける「Ω」の性。αとΩの性はその中でも極稀で希少だ。それでもカリスマ性のあるαと比べΩは子を産むだけの存在という世間からの認識。それ故に偏見もあり、Ωは虐げられることの方が多かった。
定期的に訪れる発情期は、個人差はあるものの一週間ほど体がままならず何もする事ができなくなる。所謂「繁殖期」ともいい、繁殖行為しかできなくなってしまうこの期間のせいで、仕事に就いても重要な役職は与えられず社会的地位も低いままだ。Ωの発するフェロモンに惑わされた者とのトラブルも多く、性的な目で見られてしまうことも常だった。そして人口の多いβ性が大半を占めるなか、そのうちバース性そのものを持たない者が現れ始め、理玖達のいる現代ではこの「第二の性」を持つ者は半数くらいになったと言われていた──
翔の第一印象は良くなかった。
いきなり「ハズレ」呼ばわりし、態度も冷たい。まるで俺に興味がないように振る舞い失礼極まりないと思っていたのに、冷たくあしらわれるうちに悲しくなり縋りたくなってしまった。嫌いなはずなのに甘えたい気持ちになってしまう。複雑な気持ちが渦巻いて、挙げ句の果てには自分に触れてこない翔に対して俺は欲情までしていた。認めたくない自身のΩの性が、どうしようもなく翔を求めてしまっているのがわかってしまった。
「しないの?」
そう言って翔にもたれ掛かりじっと見つめた。「二人きりになりたい」と言ったのは俺だ。あんな掲示板にプロフィールを載せているくらいだ。翔だってその意味がわからないわけがない。
「なあ、翔さんはどっち側?」
とりあえずセックスをする相手には最初に聞く。ポジションは殆どが俺が受け身だけど、たまに抱いて欲しいという奴もいるから、そういう時は要望に応じて相手をしていた。まあひと目会えば大抵どちら側かはわかるのだけど……
「……俺はお前に抱かれる気はない」
俺の思った通りの翔の返事に期待が膨らむ。でもその後に続いた言葉に落胆した。
「抱かれる気はないし、お前を抱く気も無いから。今日は何もしないよ」
翔は俺を見てハッとした表情を見せ、優しく頭を抱いてくれた。翔の胸に顔を埋める形になった俺はその時初めて泣いていることに気がついた。
は? 何でだ? 俺は翔に拒まれて泣いてるのか? 自分自身、信じられなかった。涙なんてここ何年も流していないのに、全くもって意味がわからない。きっと翔だってわけがわからないのだろう。何も言わずに優しく俺の頭を撫で続けている。気不味いったらありゃしない。
とりあえず涙の意味はわからないけど翔に頭を撫でられているのが心地良くて、しばらくそのまま翔の胸に顔を埋めていた。
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