バース性、第二の性

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 情緒不安定この上ない……  しばらく翔に優しく抱かれていたけど、いきなりグイッと引き剥がされてしまった。 「お前大丈夫か?」  さっきも少し気になったけど「お前」呼ばわり。これ俺、好きじゃないんだよな。どうしたって下に見られていると感じてしまう。見た感じ俺と歳は変わらなさそうだし、俺は初対面だから気を利かせて「翔さん」と呼んでいたのに、こいつは最初こそ「理玖君」なんて言っていたけど何度も俺のことを「お前」と言った。 「俺、理玖って名前あるんだけど」  不満を隠さずそう言ったら、翔は面倒臭そうな顔をしてフンと鼻を鳴らした。ムカつくのに一々悲しくなってしまうのは何なんだろう。もっと優しく接して欲しいと思ってしまう…… 「……抱く気はなくても、名前くらいちゃんと呼んで欲しい」 「そうだな、悪かったよ。理玖──」  翔は素直に謝ってくれ、優しい笑みを浮かべながら俺の肩を抱いてくれた。こんな表情を見せ優しくしてくれるのなら、このまま抱いてくれてもいいのに……俺はそんなに魅力がないのかと辛くなる。今まで何人もの男と会ってきたけど、こんな気持ちになった事など無かった。きっと俺はαの男と接した事がなかったからわからなかったのだろう。こんなΩの本能のようなものは、俺は正直知りたくなかった。 「ねえ、本当に何もしないの? 俺はいいよ……」  癪だったけど俺は翔の太腿に手を添えその内側を軽く揉む。翔の中心部に触れるか触れないかの際どいところまで指先を滑らせていったらその手をグッと掴まれ止められてしまった。 「淫乱Ωのフリして辛くね? お前ノーマルかせいぜいβだろ? なんでこんなことしてんの? 趣味?」  そう翔は吐き捨て、気分を害したのか俺から逃げるようにしてシャワーを浴びに行ってしまった。 「煩い。そんなの俺の勝手だろ……」  翔の言葉に俺はそう呟くのがやっとで、震える指先をギュッと握り込み唇を噛んだ。初めて直接向けられた自身の性への嫌悪にどうしてもショックを隠せなかった。  俺は普段から強い抑制剤と避妊薬を服用していた。それは勿論俺がΩだということを隠すため。殆どの人間が第二の性を持たないノーマルか、β。ひと握りしか存在しないと言われているαやΩはわざわざそれを公にはしない。それでもαのようなカリスマ性があったり有能な人間なら、周りは薄々勘付くもの。αの人間はたとえそれがバレたとしても何ら不都合はない。「やっぱりそうだと思ったよ」等称賛の声が上がるだけのこと。ただΩは違う。Ωだとわかった途端にその目は差別の色を含む。女のΩならまだしも男となるとそれは顕著にあらわれる。人は皆平等だなんて言うけれどそんなものは嘘だと俺は知っていた。  今まで俺はΩだとバレることは一度もなかった。翔だって俺がΩだと見抜けなかった。翔のあの言葉を聞いてΩだとバレなくて本当によかったと心底思う。こんな差別的なことを言う奴に縋って欲情していた自分が情けない。同じベッドで横になったけど、俺は怒りで一睡もできなかった。    
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