バース性、第二の性

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 何もしないまま朝を迎え、一晩中眠れなかった俺は翔の寝顔を見つめる。顔は好みだったんだけどな……と無意識にその頬に手が伸びた。自ら公言しないとはいえ、αの人間なんてきっと何の悩みもないのだろう。俺だって好きでΩになったわけじゃない。Ωだからって淫乱なわけじゃない。スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている翔の顔を見ていたらまた怒りが湧いてきてしまい、顔を背け壁を見つめた。  翔は何故、俺の誘いに乗って会ったのだろう。欲を発散させたかったからじゃないのか。俺が「ハズレ」だったから抱く気も起きずにこうやって一人で寝ているのだろうか。何もしない、話すらしないのなら「二人きりになりたい」なんて言う俺に付き合わずにさっさと帰ればよかったのに。 「変な奴……」  翔の小さな寝息が頸に触れ、咄嗟にそこを掌で守る。居心地の悪さに俺はそっとベッドから抜け出すと、一人身支度を整えた。  何で初めて会った奴にこんな扱いをされ、侮辱されなきゃならないんだ。  俺は男でΩだ。女と一緒になったところで俺は相手の望むようにはきっとできない。たとえαの女がいたとしても、俺は女は抱けない。その女が運命の番なら上手くいくのだろうけど、これは絶対無理だとわかっている。俺がゲイなのはきっと俺の運命の番が「男」だからだ。  αとΩの間にだけ存在する番の誓約。中でも「運命の番」はその二人にしかわからない、産まれた時から決まっている運命の相手のこと。単なる番の誓約だけじゃない強い繋がり。そんなものは存在しないと強がってみても、恐らくΩの人間は皆「運命の番」に夢を見ているのだと思う。「運命の番」なんて単なる絵空事にすぎないのかもしれないけど、こうでも思ってなければやっていけないから……いろんな奴と体を交わせば、もしかしたら俺の番が現れるかもしれない。そうすればこのぽっかりと穴の開いたような寂しさも埋められるのかもしれない、そう思い僅かな望みに縋って俺は今まで生きていたんだ。  こんなこと、言ったところで笑われるか呆れられるかがオチだ。そもそもΩのことを「淫乱」と吐き捨てるような奴には言えるはずはなかった。 「無いな……お前こそハズレだ」  俺は翔の言葉を借りて同じことを呟いた。  言葉にしたら少しだけすっきりしたような気がした──
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