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 目覚めは最悪そのものだった。 「ふぅ」  大きく深呼吸をして邪気を払うように伸びをする。朝日が照りつける窓辺で体を伸ばすと、ぼくはいつものように足音をひそめてシャルメーニュの間に向かった。 「あ」  向かおうとしたのだが、四角い出窓から見える景色に目を奪われ足を止めてしまった。大輪の紫陽花が花開いていたのである。薄い桃色や藍色の花弁がはらりはらりと落ちているのも風情があっていいと思った。 「たまには散歩もいいよね」  ひとりでにそう呟くと、ぼくはシャルメーニュの誇る花園に向かっていった。朝の空気はぴしりとしていて、ぼくは少し緊張しながら歩みを進めた。  花園の入り口にはベンチが等間隔で並んでいる。そのひとつに腰を下ろし、紫陽花の匂いを楽しんだ。 「……」  ハイリの屋敷も綺麗な庭園を持っていた。園芸師によって毎日手間暇かけて整えられた庭園はそれは見事な出来だった。ぼくとハイリは毎朝の散歩でその庭園を走り回りお互い息を切らして芝生の上で寝転がる。そんな朝を迎えていた。  だめだ。また思い出してしまう。  記憶に残る温かな記憶に縋り付いてしまうのはぼくの悪い癖だろうか。でも、またあの優しい声で呼んでほしい。ぼくの名前を呼んでほしい。そうしてもらえたらどんなに心躍るだろう。
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