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にいさま
溶けてしまいそうなほど、温かい夢を見た。
ぼくがいるのは足先が凍ってかちこちになってしまうほど、雪の深い辺境の炭鉱の街だった。しんしんと降り積もる雪が、ぼくの肩や膝に赤い跡を残していった。それは時が経つとじくじくと痛みだし、ぼくの心をきりきりと締め付けていった。
炭鉱で生まれて、炭鉱に生き、炭鉱に死んでいくのだと幼いながらに思った。母と父もそのまた祖父も祖母でさえ、この街に生まれただ騎士族の持つ土地でひたすらに働きその心血をこの地に注いで死んでいった。炭鉱で働き続けると、人は炭鉱の毒に侵され早死にするのだという話は父から聞いていた。ぼくもいつかそうなるのだと、それが運命かのように決めつけていた。
「……」
もくもくと昇る黒い雲が灰色の空を暗く汚していく。この街に晴れの日は少ない分、曇りの日がいつもの風景で、ぼくはそれを日常だと感じていた。
手先の感覚がない。今日は厳しい税の取り締まりの日から3日経つ。数年ぶりの大不況とあってか、炭鉱の仕事と畑仕事をしていたぼくの家の家計は火の車だった。両親が亡くなってから近所のゾフおじさんやサリンおばさんと暮らしてきたが、昨日2人は遠くの親戚の家に逃げていってしまった。あまりの貧しさにこの街を捨てざるをえなかったのだ。
当然、血のつながらない近所の子どものぼくは置いていかれた。寂しいといえば嘘になるが、そこまで2人の負担にはなりたくなかった。炭鉱の仕事から帰ると貧しさの中に優しさはあって、ライ麦のパンとかぼちゃのポタージュを用意してくれる、そんな優しい2人だったから。
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