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スウェロニア家の一族
「ゾフっ! 待てっ」
けむくじゃらのネズミ色の毛糸がごろごろと庭を転がり回るのを、ぼくは捕まえようとしていた。
屋敷に来てから一年が経ち、ぼくは正式にスウェロニア家の一族として生きていた。
伝統ある騎士団の名に恥じぬ騎士になるようにと、厚く健やかに育てられるハイリには、朝から晩まで稽古の日々が続く。その一方で屋敷の使用人見習いのオズは、スウェロニア家の奥様が飼い始めた水難救助犬であるジュマーニュー犬という犬種であるゾフの世話を任されていた。
ゾフは屋敷に来た当時は抱っこされるのが大好きで、気づけばすやすやと眠っていた大人しい子犬だった。しかし、一年も経てば体は成犬に近く成長し、水難救助犬としての訓練も始まったせいかやんちゃになり始めていた。そんなゾフを追いかけるのが手一杯のオズは今日も屋敷の広大な庭を追いかけっこするのであった。
「はあっ、やっと捕まえたっ」
くぅん、と観念したように鳴いたゾフのリードを手に犬舎に連れて行く。そろそろ専門のトレーナーもつけるという話になっていて、ゾフの相手をするのもあと少しとなりオズは寂しく思っていた。
中央の庭にはハイリの住む本邸がある。オズには使用人用の宿舎の一室が与えられていた。ハイリと会えるのは週末の休みの日だけとなり、そのたびにハイリはオズを外の世界に連れていってくれた。
このあいだは白鳥の雛がたくさん生まれたと聞きつけて遠くの湖まで見に行ったり、屋敷の自慢である庭先でかくれんぼをした。
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