スウェロニア家の一族

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「オズは一人前の使用人になってぼくの帰りを待っているんだよ」 「わかりました。にいさま」 「さぁ、今日は何して遊ぼうか?」  ぼくの暗い気分を察してか、腕を伸ばしてハイリが立ち上がる。花園のベンチに腰掛けていたぼくには、3つ年上のハイリが急に大きく見えた。ぼくとそれほど背丈は変わらないのに。 「オズ、かけっこしよう。松林まで競争だ」  言い出したとたん、ハイリが花園の入り口を出て駆け出した。ぼくはあっけにとられたが、すぐにその後を追いかけた。自慢ではないがぼくはかなり足が速い方で、歳の離れたハイリにも劣らない日が多かった。  ぐんぐんと距離が近づくのを感じてぼくはわざと足の速さを緩めた。にいさまの背中をずっと追いかけていたくて、抜き去るなんてことはしたくなくて気づけば松林にはハイリが一番に到着していた。  息を荒げながらハイリが芝生に身を投げる。ぼくもそれにならって少しチクチクする芝生に背中を押しつけた。 「オズ。ぼくはスウェロニア家の中でも一番の騎士になる」  ハイリが掌を空に向けて伸ばした。この地方は晴れの日が多く、今日も油絵のようなくっきりと浮かんだ白い雲が空を優雅に泳いでいた。ハイリはその雲を掴むようにぎゅっと拳を握る。 「オズが誇れる兄になるよ」  隣に寝転んでいたぼくを、不意にハイリが見た。翡翠色の瞳は今日も優しくぼくの姿を写す。 「はい。にいさまの夢をぼくも祈ります」 「約束だ」  そっと、ハイリが小指を立てた。 「?」 「小指を絡めると、約束の印になるんだ。知らなかったか?」  ぼくはこくんと頷いた。ハイリは透き通った白い指をぼくの手に絡める。 「オズ。おまえもスウェロニア家の一族として誇れるようになるんだぞ」 「はい。にいさまの期待に応えると約束します」  屋敷から見える山の稜線は空との切れ目を明白にしていた。青と白の空に真昼の月が上っているのをぼくらは静かに見上げていた。
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