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「うっ」
ぼくはジルバートの勢いのまま客席に飛び出してしまった。顔を上げると、さすがのハイリも虚を突かれたのか、身動きが取れていない。剣舞大会では帯刀許可が下りなかったため、剣も持ち合わせていない。
ハイリが危ないっ。
ぼくの唯一の特技ともいっていい体の身軽さを武器にハイリに向かって飛び込んだ。ジルバートが大きく剣を振り上げたのは幸か不幸か。一瞬の間ができた。ぼくはその間でハイリとジルバートの間に飛び入った。
剣が振り下ろされる音が耳に入る。ジルバートは唸り声を上げて剣を振り下ろしたのだ。遠くの方から悲鳴が上がった。
「かはっ」
鋼で打ち付けられたような痛みが胸を襲う。鮮血が迸った。視界が真っ赤に染まっていく。どくどくと心臓の鼓動が速くなる。ジルバートはぼくの体をなぎ倒すと、ハイリに向けてもう1度刃を振り下ろした。
「ぐはぁ」
次の瞬間、醜い呻き声を上げてジルバートは膝をついた。見れば大槍がジルバートの背から胸を貫いている。ジルバートは最後の足掻きと言わんばかりに刃を横に振った。それを避けたハイリがジルバートの頭に蹴りを入れる。顎が粉砕する音が聞こえた。
ジルバートが倒れたのを見てぼくはほっとした。仰向けに倒れるぼくに人が近づいてくる。その足取りは幾分か焦っているように聞こえて嬉しかった。こんなときに嬉しいだなんて気が触れているとしか思えない。
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