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「嬉しかったってことは、オーナーさんはそれを聞いていたってことだよね」
「あとから、さっきの彼とかから伝え聞いたパターンもあるけど。どちらにしろ、若い娘が効果音の入りそうなワードを大声で叫んだのを聞いたら、普通は引くけどね」
それから、少しの間黙って、「でも」と口を開く。
「嬉しく思う可能性もあるとは思う」
「そう?」
「多恵子の優しさは、自己犠牲的だから」
「よくわからないけど」
「自分のためにそこまでしてくれたって思ったら、好きになることもあるんじゃないの」
「わたしのことが好きなの? オーナーさんが?」
目をしばたたいてしまう。
「だから、ストーキングしているんでしょうが」
「そっか。そうなのか」
とたんに胸が落ち着かなくなる。誰かに好意を寄せられるって、悪い気はしない。
「付き合ってみたら?」
「奈保!」
「いいじゃない。イケメンだし、実業家だし」
「ストーカーだけど」
わたしが口を尖らせながら言うと、奈保はけたけた、と笑った。
「それに、わたしにはやっちゃんがいるし」
当然のことと思って言ったのに、それには、なぜか両手をかかげ上げられてしまうのだった。
「さっきの彼」
「料理人の?」
「そう。たぶん彼、オーナーのこと好きだよね」
「え! 三角関係?」
「そうじゃなくて。なんで鼻の穴膨らませているのよ」
わたしは慌てて鼻をさする。
「信頼している感じ。他の従業員もそうなのかも。だから、NGなメニュー名も、誰も却下って言えなかったんじゃない? オーナーを傷つけたくなくて」
「なるほど」
「それだけ部下に慕われているのが本当だとしたら、彼が言うようにネガティブなだけで、悪い人じゃないよね」
それにしたってストーカーはないけど、と奈保は笑った。
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