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🍰 「どうして、ごめんなさい?」  彼の助けを借りて体勢を立て直してから、首をかしげて問いかけた。  わたしの惨事を救ってくれたのだから、彼が謝る必要なんてない。あのまま落下していたら、コンクリートにしたたか頭を打ちつけて、本当の意味でのダメ子になっていた可能性は大いにある。  彼は素早かった。  サラブレッドの出走並みのスピードで、ざっとその場から離れると、近くにあった立て看板の後ろに隠れた。隠れたと言っても、その高さは腰くらいしかない。しゃがみ込んだところで、肩から上がばっちり見えている。  彼が盾にした看板に書かれた文字が「犯罪行為を許さない」で、この辺を管轄する警察署で設置したものらしく、意図的ではないとわかっていても、噴き出しそうになってしまった。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」  怒濤の勢いで謝る彼。 「いつもいつもこそこそ様子見ていたりして、本当にごめんなさい!」 「え? あ、うん」  週末の夕方。駅から近いせいもあって、人通りは多い。誰もが何事かと怪訝な視線を飛ばしながら、わたしたちを追い越していく。見方によっては、悪者はわたしのほうに見えるかもと思うと、気もそぞろだ。 「でも、そのおかげで、と言うのも変だけど、ケガするのを回避できたし。ありがとう」  わたしは手を膝の上で揃えて、身体を直角に折り曲げる。  頭の片隅に、渋面でこちらを睨む奈保の顔が浮かんだ。お人好しすぎる、という声さえ聞こえてきそう。でも、彼に助けてもらったことは事実。お礼を言ってしかるべき。 「だ、だけど、こんな気持ち悪い僕なんかが、あなたに触れてしまうなんて」 「うーん」  それには、なんて答えたらいいものか、と考えあぐねる。  彼はストーカーだ。わたしへの好意からだとしたって、お世辞にも気持ち悪くないとは言えない。
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