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「無愛想なくせに距離感が近すぎで、人を見下した雰囲気のある若い男性?」
「ものすごいディスっているなと思ったものの、否定してあげられるところが一個もなかった」
「じゃあ、谷中くんだ」
「落ち着いたところでなんだけど、さっきの松ぼっくりの出どころが無性に気になる」
「や、谷中くんと話したの?」
スマホがちゃんと動いて安堵するわたしの二、三段下で、あいかわらず顔を真っ赤にした彼がバッグを拾い上げた。菌が、なんて言っていたわりに、念入りに埃を払ってくれている。
なんとも不思議な感じ。わたし今、自分のストーカーと会話している。
目が合うと逃走していた彼は、いざ話せば、意外と普通にやり取りができる。若いながらもお店を持って経営しているわけだし、恋愛にあんまり免疫がないだけで、実はちゃんとした常識人なのかも。
そんなことを考えていたら、うっかり返事を忘れるところだった。
「えっと、ランチを食べていたお店で、たまたま会って……」
手の中でスマホが震えた。
突然だったから、びっくりして落としそうになる。
画面に表示されたメッセージを見て、冷や汗が吹き出た。ドクロマークのスタンプ一つ。もはや言葉ですらない。
「やややややばい。モモモモモ」
崇高な使命を仰せつかっているわたしに、立ち話をしている余裕などないのだった。
「桃?」
「モンブランのタルトを見つけないといけないの。まだやっていそうなお店に望みをかけないとならないから、ごめん、わたし行くね。助けてくれてありがとう」
もう一度お礼を言って、バッグを受け取ろうと彼に向かって手を伸ばす。
彼はバッグを差し出さない。なんだか変な顔をしている。
「それ、もしかして彼氏さんが?」
「あぁ、うん、そう。あれ? やっちゃんのこと知ってる?」
問いかけてから、ああ、そういや彼はストーカーだ、と思い直した。愚問だ。
彼は口元だけに笑みをたたえて言う。
「もちろん。むしろ知らないことがない僕でいたい。多恵子ちゃんのことなら、どんな小さな情報も見逃さないように、朝だろうが夜だろうが時間の許す限り、血眼で観察して」
「うをほほほほほ怖いよう。常識ある人の考えではありませんでした」
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