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彼はおずおずと尋ねてきた。
「タルト? ただのモンブランではだめなんだ?」
「え? あ、うん。栗を使ったタルトならいいんだけど……モンブランは歯応えがないから嫌なんだって」
その理由に違和感を覚えたことなかったけど、改めて声に出して第三者に説明してみると、どことなくおじいちゃんの言い分みたいである。
「ぴちぴちですよ」
「え? 何が?」
戸惑う彼に、わたしは笑って誤魔化す。
「この時間では、もう厳しいんじゃないかな。モンブランだったら大抵の店で出しているし、残っている可能性もありそうだけど」
さっきよりもさらに萎縮して、こわごわと彼は言った。自分の意見を述べることが、まるで悪いことであるかのよう。
「やっぱりそうかなぁ」
たはは、と力なく笑うほかない。
でも、もう少し足掻いてみよう。手ぶらで帰れば、きっとやっちゃんはがっかりする。
彼はこぶしを顎に当てて、考え込んでいる。
「あの、わたしそろそろ」
わたしが再度バッグに手を伸ばすと、口を開いた。
「谷中くんに頼んでみようか」
「え?」
あの無愛想で距離感近すぎで、人を見下したシェフに?
心の中で驚いたつもりだったのに、どうやら声になって出ていたらしい。彼は苦笑いだ。
「愛想はないけど、根は優しいんだ。頼めば、きっと作ってくれると思う」
「え!」
なんと。あの彼はスイーツまで作れるらしい。パティシエと呼ぶべきだろうか?
「でも……それは嬉しいけど、迷惑じゃないかな」
「迷惑だ、とは言われるだろうね」
「あああ、目に浮かぶ」
「ふふ。でも、はっきりそう言われちゃうと、なんとなく気が楽になる。僕なんかはだけど」
「あ、わかる気がするかも」
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