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 続いてわたしが入り口から顔を覗かせると、それは悲鳴に変わった。  店内には数人の女性客。みんなの視線がわたしに注がれている。背中を向けて席に着いている人でさえ、振り返ってまでわたしを見ている。その表情は、どう見ても一様に好意的ではない。  何事?  ストーカー、もとい、一ノ瀬さんはまったく意に介さないといった様子で、お客さんたちに会釈する。どんどん厨房、もとい、キッチンへと入っていった。  わたしはドアから顔だけを生やしたような感じで、その場に取り残される。  彼女たちとは初対面のはずで、悪いことをした覚えはもちろんない。でも、びびってしまって、それ以上足を踏み入れられないのだ。  おかしいな。以前、一人できた時には、こんな雰囲気にならなかったはず。 「ああ、やっぱりあんたか」  キッチンから、ランチ中に会ったシェフの彼が出てきた。  谷中さんだ。うさん臭かった彼なのに、真っ白な制服に身を包んでいると、まっとうな料理人に見えるから不思議。  敵意で満ち満ちた中に、見知った顔を見かけてほっとした。 「きのこみたいに生えていないで、中に入ったらどうすか」 「いや、なんか」  ちらちらと店内に目線をやるわたしを見て、「ああ」と声を出す。 「もう手遅れっすね。放っておけばいいっすよ」 「えええ手遅れ? どういうこと?」  ドアの外側から背伸びするようにして、ひそひそ声で尋ねる。 「常連客にめちゃくちゃモテるんすよね、オーナー。本人に自覚ないけど」 「あ、この方々は常連の……それはつまり?」 「彼女と勘違いされたんじゃないすかね。一緒にきたから」 「えええ?」  そんな見当違いの勘違いで攻撃されたらたまらない。弁解したい。 「どうせ半分は当たっているようなもんでしょ」 「どこをどう解釈したら、そうなるの?」  消え入りそうな声での訴えをさらりと無視して、谷中さんは戻ってしまった。
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