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「やっちゃんは、よく言うけどなぁ」
やっちゃんとは、わたしの彼氏の名前だ。
奈保は眉間にシワを寄せる。
「どこにいるのか訊いただけで、なんで殺されないとならないのよ。デートだっていうのに寄り道して、待ち合わせ場所にこないほうが悪いんでしょうが」
「でもその寄り道って、わたしの決めつけなわけだし。それに腹が立ったのかも」
「それならそれで、ちゃんとした理由を言えばいいだけのこと。第一、決めつけられるのって、前科があるからで」
「それはまぁ……あと、歩いているのに、どこそこにいるって答えられるわけないって言われた」
「は?」
「それはそうだなって」
「待て待て、納得するな。そんなの、この辺り歩いているよ、で済むじゃない」
「どこそこって答えたところで、お前に正確に場所がわかるのか、とも怒鳴られた。きっと方向音痴のわたしが迷わず迎えにこられるか、心配してくれたんだ」
「違うな。会うのが面倒になっただけだな、それは」
「そうかなぁ」
会うのが面倒になるって、疲れていたってことかな。仕事が忙しかったのかもしれない。それなら、週末にデートの予定なんて入れて、悪いことをしてしまった。
奈保はまたため息をついた。今度は深く、長い。
「多恵子はさ、ちゃんと自分が幸せになれることを考えないと、本当にいつか身を滅ぼすよ?」
わたしはびっくりしてしまう。
「幸せだよ? やっちゃんは、確かに、たまにちょっとアレだけど」
「わたしの認識では、たまにではないね」
「でも、だいたいはすごく優しいんだよ」
「それ、ダメ男にはまった女子が言う典型的なやつだよ。多恵子は人が好すぎる。さっきのコーヒーもだけど」
またびっくりする。
「コーヒー、すごくおいしいよ?」
むしろ得しちゃったと思っていたのに。
「そうじゃなくて。うーん……ほら、ストーカーのことも」
「あぁ、ストーカー」
「今日もいる?」
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