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「駅にいた時はいた。今は、どうだろう? そういや、忘れてた」
言われて思い出して、周りをきょろきょろと窺う。
駅の南口にあるカフェ。店内には、それらしいお客さんはいない。
「気を抜くと忘れちゃうんだよね。いつもいるから、慣れちゃったっていうか」
「慣れないよ、普通」
「そう? まぁ、多少は気持ち悪いけど」
「多少って。暢気なこと言っていないで、さっさと通報したほうがいいよ」
「通報まではどうかなって思う。別に害はないし」
「あってからじゃ遅いでしょ。て言うか、ストーキングされているって時点で、立派に実害」
奈保は呆れたように目を細めて見てくる。「だけど」と言った。
「多恵子なんかをストーキングして、何の得があるんだろう」
「ぎゃふん」
奈保のクロックムッシュプレート、わたしのフレンチトーストプレートが届けられる。高校から仲良しの二人が頼んだランチが、見た目的にはどちらも大差ないのが、なんだかおかしい。
少し食べ進めてから、奈保が口を開いた。
「多恵子のストーカーって、イケメンなんでしょ?」
「そうそう! まるでヴィジュアル系ロックバンドのボーカルみたいだよ」
自分の膝をすぱんと平手打ちしたところで、そういえば、と思い出す。奈保にストーカーのことを詳しく話していなかった。
スポーツ用品店の店長さんである奈保は、毎日忙しい。こうしてゆっくり食事することも、ずいぶん久しぶりだ。
「それが放置の理由でもあるわけね」
奈保のじとっとした目つきに、笑ってごまかす。
「しかし、ますます謎。そんなにかっこいいなら、恋人の一人や二人すぐできそうなものなのに」
「わたしなんかをストーカーする必要ないよね」
自分で言っても、悲しくなるものなんだな。
「何歳くらいの人?」
「うーん、たぶん、わたしたちと同じくらい」
「二十代半ばか」
「何している人なんだろ? 曜日を問わず現れている気がする」
「多恵子と同じアルバイトなんじゃないの?」
「そうかも。話しかけてみたいけど、目が合うと逃げちゃうんだよね」
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